第257話
第257話
ダンジョン実習三日目。
勇者パーティは早朝から行動を開始した。
昨夜は特に問題もなく、深淵樹海の夜を乗り切ることができた。
見張りの交代も滞りなく行われ、全員十分に休息を取れている。
今日の目標は十五階層。
昨日のうちに十階層のボスを突破しているため、十一階層からの探索となる。
十一階層以降は出現する魔物の質が変わっていた。
Bランクの魔物が目立つようになる。とはいえ、勇者パーティの足を止めるほどではない。
レオンを先頭に隊列を組み、着実に進んでいく。
途中で遭遇したブラッドエイプの群れも、ガイウスが前で受け止め、その間にレオンとノエルが各個撃破。テオドールの魔法が援護し、フィアナが全体を支える。
危なげなく戦闘は終了した。
「昨日よりは戦い甲斐があるな」
ガイウスが笑う。
「そうだな」
レオンも頷いた。
合同遠征以降、意識しているのは技術だ。
力任せに戦わない。正確に、丁寧に。
その意識は今日も継続している。以前より無駄な動きは減っていた。
ルシアンもそれを確認している。
まだ改善の余地はあるが、確実に良くなっていた。
探索を続ける中で、素材の回収も行う。
深淵樹海は未踏破ダンジョンということもあり、希少な素材が多い。
特に今日は運が良かった。
「これは樹精花か」
テオドールが足を止めた。
木の根元に咲く薄緑色の花。魔力回復薬の素材として知られている。
状態も良い。
「結構高く売れるやつ?」
ガイウスが尋ねる。
「ああ、品質次第ではかなりの値段になる。採点対象にもなるだろうな」
フィアナとノエルが慎重に採取し、収納バッグへしまう。
バッグの容量にはまだまだ余裕があった。
こうして探索と戦闘を繰り返しながら、一行は着実に深層へ進んでいく。
十四階層へ到達した頃。
ノエルが前方を指差した。
「人」
全員が足を止める。
少し離れた場所に別の冒険者パーティがいた。
戦闘中らしく、巨大な魔狼と交戦している。
レオンたちはその様子を少しだけ確認すると、別方向へ進路を変えた。
「助けなくていいのか?」
ガイウスが聞く。
「必要ない」
テオドールが即答する。
「問題なく戦えている。それに冒険者同士はダンジョン内では基本的に不干渉だ」
ルシアンも頷いた。
ダンジョン内では余計な接触を避ける。これは冒険者の常識である。
戦闘中に近付けば横取りを疑われる。あるいは相手の集中を乱してしまう。
善意で手を貸したつもりが、余計なトラブルになることも珍しくない。
もちろん、本当に命の危険があるなら話は別だ。
だが今の戦況を見る限り、その必要はない。
「なるほどな」
ガイウスは納得したように頷いた。
学園では学べない知識だ。
こうした経験もまた実習の一部だった。
その後も探索を続け、十五階層へ到達する。
さらに少し進んだところで今日の探索は終了となった。
位置としては十六階層の手前。
予定通りの進行だ。
テントを設営し、野営の準備を始める。
夕食を終える頃には外もすっかり暗くなっていた。
焚き火を囲みながら、明日の確認を行う。
レオンが全員を見る。
「予定通りなら明日は二十階層のボスまでだな」
テオドールが頷く。
「順調なら十分到達できる距離だ」
「二十階層以降はAランクの魔物が出るようになるはずです」
フィアナが資料を思い出しながら言う。
ガイウスは笑う。
「ようやく強いのが出てくるってことか」
「浮かれないで」
ノエルが呆れたように言う。
「合同遠征で何を学んだの」
「わかってるって」
ガイウスが苦笑する。
レオンも頷いた。
「安全第一だ。二十階層のボスを倒す。でも無理はせず、全員で帰ることを優先する」
その言葉に全員が頷く。
合同遠征を経験したからこそ、その重みを理解していた。
力だけでは生き残れない。だからこそ慎重に進む。
深淵樹海四日目、明日は二十階層のボスが待っていた。




