第254話
第254話
深淵樹海へ足を踏み入れた勇者パーティは、その後も慎重に探索を続けた。
もっとも、慎重とはいっても魔物相手に苦戦していたわけではない。
出現したのはウッドウルフやフォレストモンキー、ヴァインスネークといったCランク前後の魔物たち。
今の勇者パーティからすれば脅威とは呼べない相手だった。
レオンが先頭で魔物を斬り伏せ、ガイウスが進路を確保する。
テオドールが後方から援護し、フィアナが支援魔法を展開する。
ノエルは索敵を担当し、ルシアンは全体を見ながら不足を補う。
戦闘そのものは危なげなく終わった。
むしろ問題だったのは深淵樹海という環境そのものだった。
「また少し地形が変わってる」
ノエルが眉をひそめる。
同じ場所を見ているはずなのに、木々の並びが微妙に違う。
気のせいと言い切るには変化が多すぎた。
「迷わせるための仕組みだろうか」
テオドールが周囲を観察する。
「そうかも」
ノエルは頷いた。
「でも完全にランダムじゃないから、何か法則はあると思う」
森に慣れたエルフだからこそ気付ける違和感だった。
結局、その日は予定通り五階層まで探索して地上へ戻ることになった。
初日から無理をする必要はない。
目的は環境の把握なのだから。
宿へ戻った後は四年生と試験官を交えた簡単な振り返りが行われた。
「初日としては十分だろう」
グレイが静かに言う。
「焦って先へ進まなかった判断も悪くない。予定では明日からは十階層を目指すことになるはずだ。今日はしっかり休め」
全員が頷いた。
その後、解散となる。
夕食を終えた後。
宿の裏手で、レオンとルシアンは二人で話していた。
最近ではすっかり恒例になっている個人的な反省会だった。
レオンが木にもたれながら尋ねる。
「で、どうだった?」
ルシアンは少し考える。
「悪くありません。ですが、まだ荒いですね」
「やっぱりか」
レオンは苦笑した。
「自分でもそんな気はしてたんだよな」
ルシアンは頷く。
「今の課題は技術です。強さではありません」
「合同遠征以降、あなたは強くなろうとしすぎています」
レオンは黙って聞いていた。
ドラクス、ゼルキス。
あの圧倒的な差を知ってしまった以上、焦らない方が難しい。
「その結果、剣が少し雑になっています。踏み込みが大きく、振りも力任せになることがある」
「以前よりは良くなっていますが、まだ改善の余地があります」
レオンは頭を掻いた。
「つい力が入るんだよな」
「わかっています」
ルシアンは淡々と答える。
「だからこそ意識してください。速く振る必要はありません。まずは正確に、無駄なく、丁寧に戦うことです」
しばらく沈黙が続く。
やがてレオンが笑った。
「お前って本当に容赦ないよな」
「事実を言っているだけです」
「そこがルシアンらしいんだけどな」
レオンは肩を竦める。
だが、不思議と嫌な気分にはならない。
ルシアンはちゃんと見ている。
足りない部分も、成長した部分も、全部。
「わかった。明日からもっと意識してみる」
「そうしてください」
ルシアンは頷く。
「十階層のボスもいますから」
「まあ、今の俺たちなら大丈夫だろ」
レオンが笑う。
慢心ではない。
合同遠征を経験した今ならわかる。
Bランク程度の相手に負けるほど、自分たちは弱くない。
それでも油断はしない。
深淵樹海は未踏破ダンジョンだ。
何が起こるかわからない。
だからこそ準備を怠らない。
明日は十階層。
そして初めてのボス戦が待っていた。




