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果てなき世界  作者: 影川明空人
第5章 学園1年目 激動編
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第247話

第247話


 ダンジョン実習移動日前日。


 夕暮れの訓練場。


 そこにはルシアン、レオン、ガイウスの三人がいた。


 カン――。


 ゆっくり、本当にゆっくりと、レオンの剣とルシアンの剣がぶつかる。


 普段の高速戦闘ではない。


 意図的に速度を落としている。


 レオンが汗を流しながら剣を振る。


 だが。


「軸がぶれています」


 ルシアンが淡々と言う。


 次の瞬間、軽く剣を流される。


 体勢が崩れるレオン。


「くっ……!」


「もっと丁寧に、ゆっくりな動きで正確に振れないのなら、速い動きで正確に振れるわけがありません」


 ルシアンは静かに続ける。


「まずは正確に振って、身体の軸を意識してください」


 レオンは歯を食いしばる。


 地味だが、かなりきつい。


 勢いで誤魔化せない。細かなズレが全部わかる。


 しかも、ルシアンはレオンと剣を交えながら。


 同時にガイウスへ魔法を放っていた。


 視線はレオンの方を向いたまま。


 小規模な魔法だが、数が多い。


 高速で飛来する魔力弾。


「おぉ!?ちょ、ちょっと待っ――!」


 ガイウスが盾で受ける。


 だが、一発受けるたびに体勢がずれる。


 そこへさらに追撃。


「その場に留まらない、盾を固定しないで受け流してください」


 ルシアンが淡々と言う。


「盾役は“受ける”のではなく、“制御する”のです」


 ガイウスが叫ぶ。


「言うのは簡単なんだよ!!」


 魔力弾が増える。さらに増える。


 左右、上、斜め。あらゆる角度から絶え間なく飛んでくる。


 ガイウスは必死だった。


 一方、レオンも苦戦している。


 ゆっくり振る。軸を意識し、無駄を削る。


 だが単純な基礎ほど誤魔化せない。


「っ……!」


「肩に力が入りすぎです。もっと脱力してください」


「難しいなぁ……!」


 レオンが苦笑する。



 しばらくして、訓練が一区切りつく。


 二人ともかなり疲れていた。


 ルシアンは汗一つかいていない。


「……まあ、以前よりは良くなっています」


 レオンが少し嬉しそうな顔をする。


「ほんとか?」


「ええ」


「以前はもっと酷かったので」


「褒めてる?」


「事実です」


 ガイウスがその場に座り込む。


「死ぬ……」


 ルシアンは静かに言った。


「もう明日から移動です。何があるかわかりません。準備するに越したことはないでしょう」


 合同遠征、あの地獄は誰も忘れていない。


 だからこそ、少しでも強くなろうとしていた。


 その時だった。


 訓練場の空気がわずかに変わる。


 重い、だが威圧的ではない。


 ただ自然に存在感がある。


 レオンが振り向く。


「……アレス先輩」


 そこにいたのはアレスだった。


 夕陽を背に、静かに立っている。


 アレスは少しだけ周囲を見渡した。


 地面に刻まれた剣筋。散らばる魔力痕。


 汗だくのレオンとガイウス。


 そして、ほとんど息も乱れていないルシアン。


「邪魔だったか?」


「いえ!」


 レオンが慌てて立ち上がる。


 アレスは小さく首を振った。


「続けていてもよかったんだがな」


 その視線が再び訓練場を見る。


 ガイウスの盾、ルシアンの魔力制御、レオンの剣。


 一瞬、ほんの一瞬だけ。


 アレスの目が細められた。


「……なるほど、基礎の見直しか」


 ルシアンが静かに答える。


「ええ。結局、最後にものを言うのは基礎ですから」


 アレスは少しだけ笑った。


「違いない」


 その笑みは武闘大会の絶対王者ではなく。


 一人の求道者のようだった。


 アレスはレオンを見る。


「もう傷は癒えたのか?」


「はい。もう大丈夫です」


「そうか」


 アレスはすぐに言葉を続けた。


「無理はするな。お前は自分を壊しすぎる」


 レオンが少し苦笑する。


「……気をつけます」


 アレスは少し沈黙した後、静かに言った。


「俺はお前たちの実習には同行しない。ルミナス騎士団に呼ばれているからな」


 合同遠征、あの戦場でアレスもまた現実を見せつけられていた。


「……痛感した。俺一人が強くても、どうしようもない現実があると」


 静かな声だった。


 だが、そこには確かな悔しさがあった。


「もっと強くならなければならない。俺も、お前たちもだ」


 レオンが真っ直ぐ頷く。


「はい」


 アレスは三人を見る。


「お前たちには期待している。励め」


 それだけ言って、アレスは去っていく。



 歩きながら、アレスはふと考える。


(ルシアンだったか……)


 合同遠征の時や武闘大会の時にも感じた妙な違和感。


 強い。


 だが、それだけではない。


 何か、説明できない何か。


 先ほども視線を向けずに行っていたガイウスへの魔法、剣を交えながらの並列処理。


 そして、あの妙な落ち着き。


(……気のせいか?)


 その違和感だけが、なぜか頭に残っていた。


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