第244話
第244話
「始め」
試験官の声が大講堂に響く。
一斉に紙をめくる音。
静寂、空気が張り詰める。
ルシアンは問題用紙へ目を通す。
(……例年通り、といったところですか)
難易度はそれなり。
だが、彼にとっては特に難しいものではない。
魔物知識、歴史、魔法理論、戦術。
どれも問題なく解ける。
むしろ簡単すぎるくらいだった。
ペンを走らせる。
(満点はまずいですね)
ルシアンは自然な動作で、わざといくつか問題を飛ばした。
さらに、微妙な問題を少しだけ間違える。
半分より少し上。
“優秀ではあるが目立ちすぎない成績”。
それくらいへ調整する。
ルシアンには周囲を見る余裕があった。少し視線を動かす。
⸻
レオンは真剣な顔で問題を解いている。
勇者として幼い頃から様々な知識を叩き込まれてきた。
歴史、戦術、政治。
意外と勉強はできる。
むしろ基礎教養はかなり高い。
(問題ないですね)
⸻
フィアナも同様。
聖女教育を受けているため座学は強い。
淡々と問題を解いている。
迷いが少ない。
⸻
テオドールは言うまでもない。
名門貴族出身で知識量は元々豊富。
静かに、だが確実に解答を進めていた。
⸻
そして、問題は。
(……あちらですね)
ガイウスは露骨に苦戦していた。
眉間に皺。汗を流しながら、うんうん唸っている。
「魔物の弱点……火……いや違う……?」
小声でぶつぶつ言っている。
試験官が近づく。
「静かに」
「……すみません」
ガイウスがしゅんとする。
⸻
一方ノエル。
こちらも苦戦していた。
だが、表情だけは真剣。
ただし。
(なんで森棲みの魔物なのに火耐性あるの……?)
(普通燃えやすいでしょ……)
(なんで罠解除の優先順位とかあるの……?)
頭の中は疑問だらけだった。
ノエルは感覚派で経験派。
だから理論問題が苦手。
それでも勉強会の成果は出ていた。
以前よりは解けている。
……本人比で。
⸻
時間は過ぎていく。
大講堂は静かだ。
紙をめくる音、ペンの音、張り詰めた空気。
そして。
「終了」
試験官の声。
一斉に息を吐く音が広がった。
試験終了後、ガイウスは机に突っ伏した。
「……終わった……」
「疲れた……」
完全に戦闘後みたいな顔をしている。
ノエルも死んだ目だった。
「もうダンジョンだけでよくない……?」
レオンが苦笑する。
「お疲れ」
テオドールも少し肩を竦めた。
「戦闘より疲れてるな、お前ら」
「実際疲れたんだよ!」
ガイウスが叫ぶ。
ノエルも珍しく同意した。
「精神攻撃だった」
ルシアンはそんな様子を見ながら、少しだけ笑った。
「まあ、赤点でなければ十分でしょう」




