第240話 side魔族
第240話 side魔族
魔族領。
その中心に存在する巨大な黒城。
重苦しい魔力が常に満ちるその空間で、四つの気配が向かい合っていた。
長い机の周囲に座るのは、魔王軍四天王。
最初に口を開いたのはイリシアだった。
蒼髪の女は冷静な表情のまま資料を閉じる。
「ルミナス騎士団には相応の損害を与えました。ですが、当初の目的であった将来有望な学生たちの排除には失敗しています」
静かな声。
だが、その場の空気は重い。
ドラクスが頭を掻いた。
「すまんな。守護者も倒せんかった」
悔しそうではある。
だが、それ以上に楽しそうでもあった。
イリシアは淡々と言う。
「ドラクスは仕方ありません。問題はゼルキスです」
その瞬間、部屋の空気が変わった。
ゼルキスは椅子へだらしなく座ったまま笑う。
「えー?」
イリシアの目が冷たく細まる。
「あなたの勝手な行動は今に始まったことではありません。ですが、あの場に居て、しかも勇者たちと対峙していたにも関わらず、一人も殺していないのはなんなのですか」
怒っていた。
珍しく。
イリシアが明確に感情を露わにしている。
ゼルキスは悪びれもしない。
「面白そうだったから行っただけだし、実際ちょっとは面白かったし別によくない?」
イリシアのこめかみに青筋が浮かぶ。
だが、その前にドラクスが笑った。
「お前も勇者の小僧と、アレスとかいう奴とも戦ったんだろ?どうだった?」
ゼルキスが少し考える。
「勇者は戦ってないけど、アレス?っていうのは、あの一番向かってきてた子かな」
少し口角を上げた。
「少しは面白かったよ」
その瞬間、イリシアの怒気がさらに増した。
「だから問題だと言っているんです!!」
「少し面白い程度で生かして帰す意味がどこにあるんですか!!」
珍しく声を荒げるイリシア。
ゼルキスは面倒そうに耳を掻いた。
「えぇ……怖……」
その時、低い声が割って入る。
「ゼルキス」
四天王の統率役、ガルドレイン
その紅い瞳がゼルキスを見下ろしていた。
「貴様はしばらく大人しくしていろ。ただでさえ最近はどこかへ消えていることが多いというのに、勝手に作戦を乱されては困る」
空気が重くなる。
だが、ゼルキスは笑うだけ。
「うーん。まあわかったよ。ちょっとやりたいことあるし」
ガルドレインの眉が僅かに動く。
「どこかへ行くなら何か言ってからにしろ」
「はーい」
適当な返事。
「じゃあもう終わりでいいね」
立ち上がろうとするゼルキス。
だが、ガルドレインが止める。
「いや、お前は魔王様がお呼びだ」
一瞬、ゼルキスの顔が露骨に嫌そうになる。
「えー」
「めんどくさいなぁ」
ガルドレインが冷たく言う。
「いけ」
「……わかったよ」
ゼルキスは肩を竦めながら部屋を出ていった。
静寂。
その後、イリシアが深く頭を下げる。
「申し訳ありません。ガルドレイン様」
ガルドレインは首を振る。
「お前は悪くない、悪いのは奴だ」
ドラクスも苦笑する。
「あいつは昔から誰にも制御できんからな」
ガルドレインは小さく息を吐いた。
「奴のことはまあいい。魔物たちの勧誘についてはどうなっている」
イリシアが即座に切り替える。
「現状、味方にできそうなのはバロールくらいですね。他は対話する知能があっても応じてくれません」
ガルドレインが目を細める。
「ノスフェラはどうだ」
「難航しています。対話には応じてもらえていますが……」
ガルドレインは腕を組む。
「そうか、引き続き頼む。奴を引き込めるかどうかで、だいぶ戦力が変わる」
そして、ドラクスを見る。
「ドラクスには、ナーガルの勧誘を頼む」
ドラクスはニヤリと笑った。
「承知した」
ガルドレインは静かに続ける。
「お前たちが直接行く場合は転移石を持っていけ。いま、お前たちを失うわけにはいかん」
「最悪、神器を持っていけ」
その言葉に空気が重くなる。
神器。魔王軍の切り札。
それを持ち出す許可。
つまり、ガルドレインも理解している。
状況は既に危険域へ入り始めていると。
ガルドレインは静かに言った。
「魔物たちも活性化している。近いうちに、人類側との大規模な戦いが予想される」
四天王たちが静かに聞く。
「それまでに準備を済ませろ」
重い沈黙が、部屋を包んでいた。




