第239話
第239話
数日後。
馬車列は、ようやくアーカディアへ近づいていた。
長かった撤退行。追撃こそなかったものの、全員の疲労は大きい。
だが、少しずつ回復してきていた。
ガイウスも動けるようになり。
ノエルやテオドールも傷は塞がりつつある。
グランヴェルも既に目を覚ましていた。
悔しそうな顔のまま、ほとんど口を開かないが。
それでも前は向いている。
ただ一人を除いて。
レオンだけは未だ眠ったままだった。
今回の戦闘でのオーバードライブ、限界を超えた一撃。反動と疲労が大きすぎた。
フィアナが何度も様子を確認しているが、まだ起きる気配はない。
⸻
その日、ルミナス騎士団と別れるタイミングが来た。
アーカディアまであと少し。
騎士団はここから別方向へ向かう。
そのため、生徒、教員、騎士団。
全員が一度集められた。
重い空気。
誰もが今回の戦いを引きずっている。
そんな中、前へ出たのはシグルドだった。
その表情も険しい。
「……今回は例年以上に魔族が兵を集めていた」
静かな声。
だが、その場の全員へしっかり届く。
「学生からも死者を出してしまった」
空気が沈む。
四年二名、三年二名。
その現実は重い。
シグルドは続ける。
「だが、これが現実だ」
誰も反論できない。
戦場。そこでは死ぬ。
どれだけ才能があっても、どれだけ強くても。届かなければ死ぬ。
「既に聞いている者もいるだろうが、いま世界各地で魔物の動きが活発になっている。それに伴い、魔族の動きも活発化している」
ざわめき。
だが、誰も軽くは受け止めていない。
今回、それを実際に目にしたからだ。
シグルドは静かに言う。
「原因は未だ不明だ。だが、こうした動きは年々増えていくものと思われる」
空気が重い。
「いままで以上に戦力が必要とされている」
そして、シグルドは生徒たちを見る。
「……もしかしたら、今回の戦いで心折られた者もいるかもしれない」
図星だった。
視線を落とす生徒もいる。
特に下級生。あの戦場、あの絶望。
四天王、SS級魔族。
心を折られてもおかしくない。
だが、シグルドは真っ直ぐ言った。
「それでも、どうか折れないでほしい」
その声には力があった。
「前を見て進んでほしい。いずれ、君たちの力が必要になる時が、必ず来る」
静寂。
その言葉を、生徒たちは黙って聞いていた。
⸻
アレスは静かに拳を握る。
悔しい。届かなかった。守れなかった。
それでも、止まる気はない。
カインも同じだった。
獣のような目で前を見ている。
「次は負けねぇ……」
アルトも静かに目を閉じる。
今回の敗北。その意味を噛み締めるように。
他にも、闘志を燃やしている者は多い。
だが一方で、立ち直れない者もいた。
恐怖が抜けない。
自分では到底届かない。
そう思ってしまった者たち。
戦場の現実は、あまりにも重かった。




