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果てなき世界  作者: 影川明空人
第5章 学園1年目 激動編
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第238話

第238話


 重い空気のまま、夜の街道を馬車が進む。


 誰も大きな声を出さない。


 アーカディアの生徒たちを乗せた馬車列。


 その周囲を、ルミナス騎士団が護衛していた。


 騎士たちは馬で移動している。


 疲労は見える。


 だが、誰も気を抜いていない。


 追撃の可能性がまだ消えていないからだ。



 馬車列の前方。


 エイルとヨルドが並走していた。


 ヨルドが低く呟く。


「……ここまでだな」


 エイルも静かに頷く。


「ええ。ここまで合同遠征で被害が出たことはありませんでした」


 過去にも死者はいた。


 だが、今回は規模が違う。


 四天王二人、さらにゼルキス。


 完全に異常事態だった。


 むしろ、よくあの程度の被害で済んだものだ。


 ヨルドが険しい顔をする。


「来年以降は考え直さねばならんかもしれんな」


 エイルは少し目を伏せた。


「それでも、現実を知らないままでは、いずれもっと大きな被害になります」


 今回、生徒たちは知ってしまった。


 本物の戦場、本物の絶望。


 そして、自分たちより遥か上にいる存在を。



 勇者パーティの馬車。


 中は静かだった。


 レオンはオーバードライブの反動で気絶したまま、顔色も悪い。


 ガイウスも座ったまま眠っている。半壊した盾が横に置かれていた。


 テオドールは窓の外を見ている。


 ノエルは膝を抱えたまま無言。


 二人とも悔しそうだった。


「……何もできなかった」


 ノエルが小さく呟く。


 テオドールも静かに言う。


「SSランク。いや、四天王クラスか。まさかあれほどとはな」


 アレス、カイン、アルト。


 学園最強格ですら届かなかった。


 自分たちは、ただ蹂躙されるだけだった。


 フィアナも眠っている。


 負傷者の回復で魔力を使いすぎた。


 そして、ルシアンは目を閉じたまま沈黙していた。


 何を考えているのか分からない。


 馬車の中に静かな時間が流れる。


 その後、ルシアンが小さく口を開いた。


「……ある意味、経験にはなったでしょうね」


 ノエルが顔を上げる。


 ルシアンは静かに続けた。


「苦い経験だったでしょうけど」


 否定はできない。


 あまりにも無力だった。


 だが、知らずにいるよりは良かったのかもしれない。


 世界は、こんなにも危険だった。



 しばらく移動した後。


 レオニードの指示で馬車列が止まる。


「……ここで夜営を行う。もう追撃はないだろう」


 周囲の警戒を続けながら、夜営準備が始まる。


 学年ごとに分かれて設営。


 だが、いつもの空気はない。


 皆疲弊していた。


 グランヴェルもまだ眠ったまま。


 レオンも起きない。


 ガイウスも完全に限界だった。


 その時、馬車の近くへ一人の影が来る。


 アレス・グランツヴァルト。


 包帯が巻かれている。


 だが、それでも立っていた。


 ノエルが小さく息を呑む。


 アレスは少し沈黙してから口を開いた。


「……少しいいか」


 対応したのはルシアン、テオドール、ノエル。


 アレスは馬車の中を見た。


 眠るレオン。


 疲弊した仲間たち。


 そして、静かに言った。


「守りきれなくてすまなかった」

「……俺の力不足だ」


 一瞬、空気が止まる。


 テオドールが即座に否定した。


「そんなことはありません」


 ノエルも続ける。


「アレス先輩が来なかったら、私たち全員死んでた」


 ルシアンも静かに頷く。


「ええ。ありがとうございました」


 それは本心だった。


 アレスが来なければ。


 ドラクスの時点で終わっていた。


 アレスは少し目を伏せる。


「……いや、俺は自分がまだ未熟だということは理解していた」


 武闘大会。


 そして、あの仮面の男との戦い。


 自分の上がいることなど、もう知っていた。


 だが。


「今日、改めて思い知った」


 ドラクス、ゼルキス。


 届かない怪物たち。


 そして、守れなかった現実。


 アレスは静かに拳を握る。


「……もっと強くならなければならない」


 その声には、悔しさと決意が滲んでいた。


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