第238話
第238話
重い空気のまま、夜の街道を馬車が進む。
誰も大きな声を出さない。
アーカディアの生徒たちを乗せた馬車列。
その周囲を、ルミナス騎士団が護衛していた。
騎士たちは馬で移動している。
疲労は見える。
だが、誰も気を抜いていない。
追撃の可能性がまだ消えていないからだ。
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馬車列の前方。
エイルとヨルドが並走していた。
ヨルドが低く呟く。
「……ここまでだな」
エイルも静かに頷く。
「ええ。ここまで合同遠征で被害が出たことはありませんでした」
過去にも死者はいた。
だが、今回は規模が違う。
四天王二人、さらにゼルキス。
完全に異常事態だった。
むしろ、よくあの程度の被害で済んだものだ。
ヨルドが険しい顔をする。
「来年以降は考え直さねばならんかもしれんな」
エイルは少し目を伏せた。
「それでも、現実を知らないままでは、いずれもっと大きな被害になります」
今回、生徒たちは知ってしまった。
本物の戦場、本物の絶望。
そして、自分たちより遥か上にいる存在を。
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勇者パーティの馬車。
中は静かだった。
レオンはオーバードライブの反動で気絶したまま、顔色も悪い。
ガイウスも座ったまま眠っている。半壊した盾が横に置かれていた。
テオドールは窓の外を見ている。
ノエルは膝を抱えたまま無言。
二人とも悔しそうだった。
「……何もできなかった」
ノエルが小さく呟く。
テオドールも静かに言う。
「SSランク。いや、四天王クラスか。まさかあれほどとはな」
アレス、カイン、アルト。
学園最強格ですら届かなかった。
自分たちは、ただ蹂躙されるだけだった。
フィアナも眠っている。
負傷者の回復で魔力を使いすぎた。
そして、ルシアンは目を閉じたまま沈黙していた。
何を考えているのか分からない。
馬車の中に静かな時間が流れる。
その後、ルシアンが小さく口を開いた。
「……ある意味、経験にはなったでしょうね」
ノエルが顔を上げる。
ルシアンは静かに続けた。
「苦い経験だったでしょうけど」
否定はできない。
あまりにも無力だった。
だが、知らずにいるよりは良かったのかもしれない。
世界は、こんなにも危険だった。
⸻
しばらく移動した後。
レオニードの指示で馬車列が止まる。
「……ここで夜営を行う。もう追撃はないだろう」
周囲の警戒を続けながら、夜営準備が始まる。
学年ごとに分かれて設営。
だが、いつもの空気はない。
皆疲弊していた。
グランヴェルもまだ眠ったまま。
レオンも起きない。
ガイウスも完全に限界だった。
その時、馬車の近くへ一人の影が来る。
アレス・グランツヴァルト。
包帯が巻かれている。
だが、それでも立っていた。
ノエルが小さく息を呑む。
アレスは少し沈黙してから口を開いた。
「……少しいいか」
対応したのはルシアン、テオドール、ノエル。
アレスは馬車の中を見た。
眠るレオン。
疲弊した仲間たち。
そして、静かに言った。
「守りきれなくてすまなかった」
「……俺の力不足だ」
一瞬、空気が止まる。
テオドールが即座に否定した。
「そんなことはありません」
ノエルも続ける。
「アレス先輩が来なかったら、私たち全員死んでた」
ルシアンも静かに頷く。
「ええ。ありがとうございました」
それは本心だった。
アレスが来なければ。
ドラクスの時点で終わっていた。
アレスは少し目を伏せる。
「……いや、俺は自分がまだ未熟だということは理解していた」
武闘大会。
そして、あの仮面の男との戦い。
自分の上がいることなど、もう知っていた。
だが。
「今日、改めて思い知った」
ドラクス、ゼルキス。
届かない怪物たち。
そして、守れなかった現実。
アレスは静かに拳を握る。
「……もっと強くならなければならない」
その声には、悔しさと決意が滲んでいた。




