第234話
第234話
裂けた大地、崩れた戦場。
その中央で、アレス・グランツヴァルトは静かに剣を構えていた。
前方で黒髪の魔族が楽しそうに笑っている。
異常な魔力。
だが、それ以上に不気味だった。
まるで底が見えない。
アレスが低く問う。
「……何者だ」
男は目を細めた。
「あれ?聞いちゃう?」
そして、くすくす笑う。
「俺はゼルキス。魔王軍四天王」
その瞬間、周囲の空気がさらに冷たくなる。
四天王。しかも三人目。
異常事態だった。
ゼルキスは勇者パーティを見回す。
「君たちは別に名乗らなくていいよ。どうせ覚えないから」
軽い。
まるで興味がない。
だが、だからこそ不気味だった。
アレスが一歩前へ出る。
レオンはまだまともに動けない。
なら、前に立つのは自分だ。
「へぇ」
ゼルキスが楽しそうに笑う。
「君が一番強い感じ?なら遊べそうだね」
次の瞬間、ゼルキスが消えた。
「――ッ!」
アレスが反射的に剣を振るう。
轟音。
受けた。
だが。
「軽いなぁ」
ゾッ、とした。
剣越しに伝わる感触が異常だった。
重いとかではない。
まるで、底がない。
次の瞬間、アレスの身体が吹き飛んだ。
「っ!!」
地面を滑り、止まる。
すぐに立て直す。
だが。
(……なんだ今のは)
見えた。
反応もできた。
なのに、止められない。
ゼルキスが笑う。
「いいねぇ」
「今の耐えるんだ」
軽い口調。
だが、その実力は異常だった。
ドラクスとは違う。暴力的ではない、もっと気味が悪い底知れなさ。
アレスが再び踏み込む。
一閃、二閃、三閃。
だが、ゼルキスは笑いながら避ける。
最小限の動きで。
「遅い遅い」
軽く蹴り飛ばされる。
アレスが木へ叩きつけられた。
ガイウスが飛び出す。
「アレス先輩!!」
「おっと」
ゼルキスが拳を振るう。
ガイウスが盾を構えた。
轟音。
次の瞬間、ガイウスの顔が絶望に染まる。
「え……」
盾が、ひしゃげていた。
あの大盾が、一撃で。
ゼルキスが目を細める。
「へぇ。硬いねぇその盾」
「でも壊われちゃったねぇ」
ガイウスの腕が震える。
重い、いや、怖い。
本能が理解していた。
この相手は駄目だ。
アレスが叫ぶ。
「下がれ!!」
だが、遅い。
ゼルキスが笑う。
「あんまりつまらないとさ。殺しちゃうよ?」
ゾクリ、と全員の背筋が凍る。
本気じゃない。遊んでいる。
それなのに、誰も敵わない。
もし本気を出されたら、終わる。
ノエルが風を纏って突っ込む。
高速斬撃。
だが。
「おっと」
指一本で止められる。
「速いね」
そのまま投げ飛ばされる。
「っ……!」
テオドールが魔法を放つ。
高密度魔法弾。
だが、ゼルキスは笑いながら全部躱す。
「魔法も悪くない。でも素直すぎ」
テオドールが吹き飛ばされる。
フィアナが回復魔法を飛ばす。
レオンは無理やり立ち上がろうとする。
だが、身体が動かない。
オーバードライブの反動が重すぎる。
(くそ……!)
悔しい何もできない。
援軍は来ない。周囲も戦闘中。
助けを期待できる状況ではなかった。
ゼルキスが笑う。
「いいねぇ」
「みんな頑張ってる。でも足りないなぁ」
絶望。
じわじわと削られていく。
その時だった。
「――どけぇぇぇぇ!!」
轟音。
巨大な斬撃が飛来する。
ゼルキスに直撃する。
次の瞬間、二つの影が着地する。
一人は獣のような男、もう一人は冷静な剣士。
カイン・ブラッドレイ、アルト・セイリオス。
武闘大会準優勝と三位。
学園最上位クラスの二人が、ついに戦場へ到着した。




