第232話
第232話
荒れ果てた戦場、砕けた地面、燃え上がる炎。
そして、倒れ伏す一年生たち。
その中心で、アレス・グランツヴァルトは静かに剣を構えていた。
対するは、四天王ドラクス。
ただ立っているだけで周囲の空気が震えている。
ドラクスが楽しそうに笑った。
「活きがいいのが来たじゃねぇか」
その瞳は獣そのもの。
戦いを心底楽しんでいる。
「俺はドラクス。魔族四天王だ」
そして、巨大な魔力を纏ったまま、アレスを見る。
「お前は?」
「アレス・グランツヴァルトだ」
短い返答。
ドラクスが口角を吊り上げる。
「じゃあアレスよ」
「楽しませてくれよぉ!!」
瞬間。
ドラクスが消えた。
「――ッ!」
本能が警鐘を鳴らす。
アレスは即座に剣を構えた。
直後。
轟音。
凄まじい衝撃が剣へ叩きつけられる。
今まで受けてきたどんな攻撃よりも重い。
アレスの足元が砕ける。
だが、止める。
「ほぉ!」
ドラクスが楽しそうに笑う。
「止めるか!」
追撃。
暴力的な連撃。
一撃一撃が災害。
普通なら受けた瞬間死ぬ。
だがアレスは捌く。流し、逸らす。
完成された技術。
それによって致命傷だけは避け続ける。
そして、一瞬だけ生まれた間。
その隙にアレスが踏み込んだ。
一閃。
鋭い斬撃がドラクスの脇腹を斬る。
血が飛ぶ。
だが。
「浅ぇな!!」
ドラクスが笑う。
本当にかすり傷程度。
肉体強度が異常すぎる。
アレスの目が僅かに細まる。
(硬い)
想像以上だ。
おそらく、単純な耐久だけなら、今まで見たどんな相手より上。
ドラクスが拳を振るう。
アレスは回避。
だが、掠っただけで地面が爆発する。
凄まじい膂力。
「どうしたぁ!!」
「そんなもんか!!」
ドラクスが笑いながら攻め立てる。
対してアレスは冷静だった。
勝つ必要はない。
目的は時間稼ぎ。
ヨルドたちが来るまで。
それだけでいい。
だが。
(……遠い)
武闘大会。
誰にも崩されなかった自分。
その自負はあった。
だが今、押されている。
純粋に格上、それを嫌でも理解させられる。
その時だった。
「アレス先輩!!」
後方からフィアナの声。
同時に聖なる光が飛来する。
身体強化、魔力安定化、聖女の祝福。
さらに、別方向から魔力弾が飛び、ドラクスの動きを一瞬止めた。
ルシアン。
冷静に戦場を見ていた彼が、最低限の支援を飛ばしている。
アレスの身体が軽くなる。
魔力が研ぎ澄まされる。
ドラクスが笑った。
「へぇ」
「まだ上がるか」
アレスが踏み込む。
今までより速く、より鋭い。
一閃、二閃、三閃。
連続で血が飛ぶ。
ドラクスの身体へ確かに傷が増えていく。
浅い。だが届いている。
「いいじゃねぇか!!」
ドラクスが拳を振るう。
アレスは剣で逸らす。
だが、重い。
受け流しきれない。
吹き飛ばされる。
「っ……!」
地面を滑りながらも即座に立て直す。
先ほどより戦えている。
擬似的にSS上位クラス。
だが、それでもまだ遠い。
ドラクスは本気ではない。
まだ余裕がある。
それが分かる。
アレスが静かに息を吐く。
(それでも)
止める。
ここで一年生を殺させるわけにはいかない。
再び踏み込もうとした、その瞬間。
轟音。
大地が震える。
次の瞬間、巨大な影が戦場へ着地した。
地面が砕ける。
重い魔力。
圧倒的な存在感。
ドラクスが目を細める。
「……来たか」
そこに立っていたのは。
守護者ヨルド。
巨躯の守護者は、静かに拳を握った。
「待たせたな」
その瞬間、戦場の空気がさらに変わった。




