第231話 sideアレス
第231話 sideアレス
戦場は混沌としていた。
魔力、爆炎、怒号、血の匂い。
前線では、すでに通常の戦場とは呼べない規模の戦闘が始まっている。
アレス・グランツヴァルトは、その最前線にいた。
剣を振るう。
一閃。
上級魔族の首が飛ぶ。
間を置かず、別方向から飛来した魔法を斬り裂く。
だが。
(数が多い)
魔族側の攻勢が異常だった。
しかも、ただ多いだけではない。
強い。
Sランク級。さらに、SSランク級まで複数存在している。
普通ではありえない。
シグルドが高速で戦場を駆け抜ける。
残像すら見えない速度。
その軌跡上で魔族が次々と消し飛んでいく。
だが、それでも押し返しきれない。
ヨルドが巨大な拳を叩きつける。
大地そのものが隆起し、魔族の群れを飲み込んだ。
「邪魔だ」
短い声。
それだけで戦場が揺れる。
さらに上空。
銀髪の守護者エイルが風を操り、広範囲の魔法を切り裂いていた。
そして、その視線の先。
蒼髪の女が静かにこちらを見ている。
四天王イリシア。
周囲には複数のSS級魔族。
明らかに、魔族側も本気だった。
「興味深いですね」
イリシアが静かに言う。
「想定より人類側の対応が早い」
感情の薄い声。
だが、その視線は鋭い。
アレスも剣を構えたままイリシアを見る。
(強い)
おそらく、今まで相対したどんな相手よりも。
武闘大会とは次元が違う。
これが本物の最前線。
その時だった。
後方、一年生たちが配置されている方向から、とてつもない轟音が響く。
空気が震えた。
大地が揺れる。
戦場全体が一瞬静まり返るほどの衝撃。
アレスの目が細まる。
(……まずい)
巨大な気配を感じる。
異常な魔力。
おそらく四天王クラス。
しかもイリシアとは別。
エイルも後方を見る。
「……ドラクス」
その声音が僅かに険しくなる。
ヨルドも眉を寄せた。
「一年が危ない」
シグルドが舌打ちする。
「よりにもよって後方へ行ったか……!」
前線にはSS級魔族が複数。
さらに四天王イリシア。
ここを崩されるわけにもいかない。
だが、後方には一年生しかいない。
もし本当に四天王なら。
耐えられない。
誰かが行かなければ。
死ぬ。
アレスが静かに口を開く。
「俺が行きます」
その場の視線が集まる。
ヨルドが低く唸る。
「……すぐ戻れる保証はないぞ」
「分かっています」
アレスは即答した。
「だが、今あそこへ行けるのは俺しかいない」
シグルドも一瞬考える。
そして頷いた。
「頼む」
エイルが風を纏わせる。
「なるべくすぐ向かいます」
ヨルドも拳を握る。
「耐えろと伝えろ」
アレスは頷いた。
次の瞬間、地面が砕ける。
爆発的な速度。
アレスが戦場を駆け抜けた。
⸻
速い。
風景が流れる。
途中、複数の魔族が立ちはだかる。
だが、止まらない。
一閃。
進行方向上の魔族がまとめて吹き飛ぶ。
さらに速度を上げる。
嫌な予感が強くなる。
(間に合え)
そして、ついに一年生たちの戦場へ辿り着いた。
そこに広がっていた光景を見て、アレスは息を呑む。
崩壊した地面、倒れている一年生たち、膝をつくレオン。
そして、巨大な魔族。四天王ドラクス。
その拳が、倒れたレオンへ振り下ろされようとしていた。
(間に合う――!)
アレスが剣を振るう。
斬撃、轟音。
ドラクスが初めて後ろへ跳んだ。
レオンの前へ着地する。
アレスは静かに剣を構えた。
その瞳には迷いがない。
「……悪いな。ここから先は俺が相手だ」




