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果てなき世界  作者: 影川明空人
第5章 学園1年目 激動編
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第230話

第230話


 無傷。


 あれだけの総攻撃を受けて。


 四天王ドラクスは、ただそこに立っていた。


 誰も言葉を発せない。


 いや、発したくても出なかった。


 理解してしまったからだ。


 ――勝てない。


 格が違う。


 レオンの手が震える。


 ガイウスも歯を食いしばっていた。


「なんだよ……これ……」


 テオドールも険しい顔のまま動かない。


 ノエルですら表情が固まっている。


 そんな中、最初に動いたのはグランヴェルだった。


「……ふざけるな」


 低い声。


 その瞳には激情が宿っている。


 恐怖。


 そんなものを抱いたと認められなかった。


 グランヴェル・レグナス。誇り高き第三皇子。


 誰よりも強者であると信じてきた男。


 そんな自分が、たった一度で心を折られかけている。


 認められるはずがなかった。


「この俺が……!」


 膨大な火属性魔力が剣へ収束する。


 空気が歪み、熱風が吹き荒れる。


 一年生たちが思わず息を呑む。


 今のグランヴェルは、本気だ。


 間違いなく今まで見せた中でも最大級の火力。


「舐めるなぁぁぁぁ!!」


 爆発的な踏み込み。


 一瞬でドラクスの懐へ入り込む。


 そして、全力の一撃を叩き込んだ。


 轟音。炎が爆ぜ、地面が抉れる。


 だが、ドラクスは動かない。


 ただ腕を組んだまま、そこに立っている。


 次の瞬間。


 バキン――と乾いた音が響いた。


 折れた。


 グランヴェルの剣が。


「……は?」


 呆然とした声。


 全力だった。渾身だった。


 なのに、相手の肉体へ当たっただけで剣が砕けた。


 ドラクスが楽しそうに笑う。


「悪くねぇ。でも軽いな」


 グランヴェルの顔から血の気が引く。


 武闘大会。


 カインに敗れた。


 だが、あれは理解できる強さだった。


 技術、戦闘勘、経験。


 積み重ねの先にあるもの。


 だが、目の前の怪物は違う。


 理不尽。


 ただそれだけ。


 グランヴェルが膝をつく。


 その姿を見て、一年生たちの絶望がさらに深まる。


 あのグランヴェルが、誰より誇り高かった男が。


 完全に心を折られかけていた。


「じゃあ次だな」


 ドラクスが腕を解く。


 空気が震えた。純粋な殺意。


 ドラクスがグランヴェルへ歩み寄る。


「やめ――」


 誰かが叫ぶ。


 だが、その瞬間。


 グランヴェルの姿が消えた。


 いや、誰かが回収した。


 銀髪。


 ルシアンだった。


 ルシアンはグランヴェルを抱えたまま後方へ下がる。


「ヴァルク、ディアナ」


 短く呼ぶ。


 即座に二人が駆け寄った。


「殿下!!」


「任せます」


 ルシアンはグランヴェルを二人へ預ける。


 表情は冷静。


 だが、その瞳だけが静かに細められていた。


(……想像以上ですね)


 ドラクス。


 単純戦闘力だけなら、この場で最強。


 そして何より、あの異常な肉体強度。


 その時だった。


「まだだ」


 レオンが前へ出る。


 足は震えている。


 恐怖がないわけじゃない。


 むしろ怖い。


 本能が逃げろと叫んでいる。


 だが、それでも前へ出る。


 勇者とは、勇気ある者。逃げない者。


 だから、レオンは剣を握る。


 光の精霊が強く輝いた。


 フィアナが祈る。


「どうか……!」


 聖なる光がレオンを包む。


 身体強化、魔力増幅、限界突破補助。


 重ねられる全ての強化。


 そして。


「――オーバードライブ」


 空気が変わる。


 レオンの魔力が爆発的に膨れ上がった。


 地面が砕ける。


 全身が光に包まれる。


 以前より明らかに強い。


 武闘大会を経て、レオンは確実に成長していた。


「うおぉぉぉぉぉ!!」


 突撃。


 速い。


 今までとは別次元。


 ドラクスの目がわずかに細まる。


「いいなぁ!!」

「そういうの好きだぜ!!」


 レオンの剣が振るわれる。


 全力、命を削った一撃。


 轟音と衝撃波。


 大地が吹き飛ぶ。


 周囲すら巻き込む圧力。


 そして、煙が晴れる。


 そこには。


 やはり、立ったままのドラクス。


 だが、先ほどとは違う。


 頬からわずかに血が流れていた。


 ドラクスが目を見開く。


「……おぉ?」


 興味、純粋な興味。


 初めて、四天王が一年生へ明確に関心を向けた。


 だが。


「っ……!」


 レオンが膝をつく。


 オーバードライブの反動。


 全身が悲鳴を上げていた。


 立てない。


 剣も握れない。


 ドラクスが笑う。


「面白ぇじゃねぇか」


 巨大な拳が持ち上がる。


 絶望的な一撃。


 誰も間に合わない。


 その瞬間。


 轟ッ――!!


 横から凄まじい斬撃が飛来した。


 ドラクスが初めて後ろへ跳ぶ。


 衝撃。


 土煙。


 そして、その場へ降り立った人物を見て、一年生たちが目を見開いた。


 アレス・グランツヴァルト。


 学園最強。


 絶対王者が、ついに戦場へ現れた。


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