第229話
第229話
轟音。
砕けた大地、巻き上がる土煙。
一年Sクラスのど真ん中へ降ってきた存在を前に、その場の空気が凍りついていた。
熱い。
ただ立っているだけなのに周囲の温度が上がっている。
巨大な肉体、異常な魔力、獣のような笑み。
そして、本能が告げていた。
――勝てない。
ドラクスは周囲をゆっくり見渡す。
まるで玩具を選ぶ子どものように。
「へぇ……」
「これがアーカディアのガキどもか」
その声だけで空気が震える。
ガイウスが無意識に一歩下がった。
「な、なんだよ……こいつ……」
呼吸が重い。
立っているだけで圧迫感がある。
レオンですら背筋に冷たい汗が流れていた。
武闘大会で感じたアレスの強さ。
それとはまた違う。もっと原始的で、もっと暴力的な恐怖。
ドラクスがニヤリと笑う。
「俺はドラクス。魔王軍四天王だ」
その瞬間、一年生たちの表情が変わる。
四天王。知識としては知っている。
だが、実際に目の前へ現れるなど誰も思っていなかった。
「一年を守れ!!」
周囲のルミナス騎士団が即座に動こうとする。
だが。
「邪魔はさせませんよ」
別方向から巨大な魔力が襲いかかった。
SS級魔族。
さらに、Sランク級の上位魔族が複数。
第二隊、第四隊の騎士たちが一斉に迎撃へ回る。
「くっ……!」
「数が多すぎる!」
シグルドたちも前線側でイリシアと対峙している。
すぐには動けない。
つまり、今この瞬間一年生たちは、四天王ドラクスと直接向き合わされていた。
「……っ」
レオンが剣を握り締める。
怖い。
全身が警鐘を鳴らしている。
だが、逃げられない。
「やるぞ!!」
レオンの声で全員が動いた。
本能的に理解していた。
出し惜しみをした瞬間死ぬ。
だから、最初から全力。
「『烈火』!!」
レオンの火炎斬撃。
「吹き飛べぇぇ!!」
テオドールの魔法陣が展開される。
「焼き尽くせ」
高密度火炎魔法。
ノエルが風のように背後へ回る。
フィアナの強化魔法が全員へ重なる。
さらに、グランヴェル、レティシア。
周囲にいた一年Sクラス全員が、一斉に最大火力を叩き込んだ。
轟音、爆発、衝撃波。
地面が抉れ、周囲の魔族すら吹き飛ぶ。
凄まじい連携攻撃。
普通の相手なら消し飛んでいる。
Aランクどころか、Sランクの強さの魔族ですらただでは済まない。
煙が戦場を覆う。
誰も動かなかった。
いや、動けなかった。
レオンが荒い息を吐く。
「やっ……たか……?」
その瞬間、煙の奥から声が響く。
「おぉ……」
ゾクリ、と全員の背筋が凍る。
「悪くねぇな」
煙が晴れる。
そして、一年生たちは絶望した。
ドラクスが立っていた。
無傷で、服すらまともに破れていない。
ただ、ほんの少しだけ楽しそうに笑っていた。
「いいじゃねぇか。ちゃんと全力で来る奴は嫌いじゃねぇ」
誰も声を出せなかった。
理解してしまったからだ。
あれだけの攻撃。
一年Sクラス全員の全力。
それを受けてかすり傷一つない。
技術とかではない。
防御魔法でもない。
単純に、肉体の強度が違いすぎる。




