第226話
第226話
数日に及ぶ移動の末。
ルシアンたちは、ついに魔族領付近へ到着した。
空気が違う、学園都市周辺とは、まるで別世界だった。
空はどこか薄暗く、風には重い魔力が混ざっている。
遠くには荒れた山脈。
そして、そのさらに向こう。
魔族領。
人類と魔族、その境界線に近い最前線だった。
「……なんか息苦しくないか?」
ガイウスが顔をしかめる。
テオドールが周囲を見渡した。
「魔力濃度が違う。魔族領に近い地域はこういう場所も多い」
レオンも静かに周囲を見る。
遠征学習で戦った魔族。
あれとは比べ物にならない。
ここは本物の最前線だ。
⸻
現在地は、人類側の前線拠点の一つ。
簡易砦のような構造になっており、すでに多くの兵士や冒険者が出入りしている。
Sクラスの生徒たちは到着後すぐに設営へ回された。
テント、防壁、結界装置。
拠点づくりもまた訓練の一つだった。
ヨルドが巨大な資材を軽々と持ち上げながら言う。
「何かあった場合はここへ戻れ。前線では無理をするな」
短い言葉。だが重い。
エイルも地図を広げながら補足する。
「索敵範囲は常にこちらで把握しています。ただし、魔族側にも感知能力に優れた者はいます」
「油断しないように」
その言葉に、生徒たちの表情が引き締まる。
⸻
しばらくして、拠点へ複数の騎影が現れた。
ルミナス騎士団。世界最強クラスの騎士団。
その紋章を見た瞬間、空気が少し変わる。
「来たか」
レオニードが小さく呟く。
先頭を歩いていたのは、見覚えのある男だった。
長身、鋭い目、風のような気配。
第二隊隊長――シグルド。
以前、アレスと共にいた男である。
ガイウスが思わず声を上げた。
「あっ、あの時の!」
シグルドが軽く視線を向ける。
「久しぶりだな。盾の少年」
「お、おぼえてたんすか!?」
「少しな」
相変わらず淡々としている。
だが、以前より少し柔らかい空気だった。
シグルドの後ろには、第二隊の騎士たち。
機動殲滅部隊。
全員が軽装寄りで、速度重視の装備をしている。
精鋭、それだけで分かる。
さらに、別方向からもう一団が現れる。
こちらは第二隊より装備のバランスがいい。
重すぎず軽すぎず。
どんな戦場にも対応できるよう調整された部隊。第四隊。
そして、その先頭。
赤銅色の髪を後ろで束ねた女性が前へ出る。
鋭い目。だが、どこか余裕のある雰囲気。
「第四隊隊長、ヴァレインだ」
低めの声。
自然と周囲が静まる。
「よろしく頼む、アーカディアの天才諸君」
第四隊隊長――ヴァレイン。
万能型部隊を率いる実力者。
最前線を長く生き抜いてきた猛者だった。
レオンたちも自然と姿勢を正す。
そして最後に、拠点奥の医療区画へ視線が向く。
そこには白を基調とした装備の騎士たちが待機していた。
第六隊、後方支援・回復担当。
戦場で最も失ってはいけない部隊の一つだ。
エイルが説明する。
「第六隊は基本的にここで待機します。重傷者は即座にここへ運びなさい。判断が遅れると死にます」
軽い言い方。
だが、その内容は重かった。
⸻
説明が一通り終わった後。
シグルドがSクラスの生徒たちを見渡す。
「今年は例年より魔族側の動きが活発だ。おそらく、大きく当たってくる」
その場の空気が変わる。
ヴァレインも腕を組む。
「特に最近は上級魔族の目撃報告が増えてる。最悪、四天王クラスが動いていてもおかしくない」
ざわつく生徒たち。
四天王。
その名は、流石に知っている。
魔王軍最高幹部。
人類最強クラスと同格以上の怪物たち。
ガイウスが思わず唾を飲み込む。
「し、四天王って……」
レオンも静かに拳を握る。
ルシアンだけが、少し目を細めていた。
(……やはり来ますか)
嫌な予感が、少しずつ現実へ変わり始めていた。




