第223話 sideカイル
第223話 sideカイル
東方小規模国家群。
大小様々な国が乱立するその地域は、古くから争いの絶えない土地だった。
大国ほどの軍事力はない、強力な守護者もいない。
だからこそ、入り込む余地がある。
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ある小国の城、玉座の間。
そこには、かつての国王はいなかった。
代わりに、黒いローブを纏った者たちが静かに立っている。
そして、その中心。
「順調ですねー。恐ろしいほどに」
楽しそうに笑う男。
セドリオン。
柔らかな物腰、軽い口調。
だが、その目の奥には底知れない狂気があった。
カイルはその隣に立ちながら、静かに周囲を見渡す。
「そうですね」
今日もまた一つ、小国が邪神教の支配下へ置かれた。
表向きは平和的。
だが実際には違う。
脅迫、懐柔、洗脳、裏切り。
様々な手段を使い、少しずつ侵食していった結果だった。
セドリオンが玉座へ腰掛ける。
「いやぁ、本当に順調です。あまりにも順調に行きすぎて、後でしっぺ返しが来そうで怖いですねー」
カイルは無表情のまま返す。
「本当に思ってますか」
「それはもちろん」
セドリオンは即答した。
「私は怖がりなんですよ?」
「慎重派とも言います」
絶対嘘だな、とカイルは思った。
だが口には出さない。
セドリオンは楽しそうに続ける。
「ただ、本当の目的である欠片については見つかってないので、順調と言っていいのかは微妙ですが……」
邪神の欠片。
それこそが邪神教最大の目的。
国家支配も、勢力拡大も、全てはそのための過程に過ぎない。
セドリオンが顎へ手を当てる。
「でも、なんとなく、そろそろ手がかりが見つかりそうな気がします。私の勘は割と当たるんですよ」
「そうですか……」
カイルは淡々と返した。
内心では別のことを考えている。
(……すでにいくつか候補は絞れている)
邪神教内部へ潜入してからかなり経つ。
その間に、カイルは欠片に関する情報も少しずつ集めていた。
そして、残りの欠片の位置も、ある程度予想がついている。
問題は、どこまで急ぐべきか。
最近、世界の空気が変わってきていた。
魔物活性化、十七厄災、各地で増える異変。
(時間がないかもしれない)
セドリオンがふと笑う。
「カイル君も最近は少し暇なのでは?」
「抵抗してくる人もいますが、最近はほとんど私の元まで刃を届かせられるものがいないので」
事実だった。
カイルが護衛として付き始めてから、セドリオンへ届く攻撃は激減した。
単純にカイルが強すぎる。
それだけだった。
「私が命じられているのはセドリオン様の護衛なので、安全に越したことはないです」
カイルは淡々と答える。
セドリオンは楽しそうに目を細めた。
「真面目ですねカイル君は」
「私は好きですよ、そういうところ」
カイルは無言。
この男は掴みどころがない。
思想も、本心も、まるで霧だ。
だからこそ厄介だった。
その時、勢いよく扉が開く。
邪神教徒の一人が、慌てた様子で入ってくる。
「セ、セドリオン様!」
セドリオンが穏やかに笑う。
「どうしましたか」
教徒が近づき、耳打ちする。
その瞬間、セドリオンの笑みが深くなった。
ゆっくりとカイルの方を見る。
「カイル君。私の勘は割と当たると言ったでしょう」
カイルは静かに目を細める。
「……見つかったのですか」
「ええ」
セドリオンは立ち上がった。
「いきますよ」
その声には、隠しきれない高揚が混ざっていた。
カイルもまた静かに歩き出す。
(これが確保されれば、あと六つか)
残りの欠片、その場所も、すでにある程度予想はついている。
(少し急がなければ)
世界は、確実に動き始めていた。




