第222話 sideレイヴン&ルクス
第222話 sideレイヴン&ルクス
アーカディア学園の長期休暇中。
エルフの大森林付近に存在する小さな町は、普段より遥かに騒がしかった。
冒険者、傭兵、調査員。
そして、各国から派遣された者たち。
魔族領に近いこの地域で、最近になって異様な魔物の動きが確認され始めていた。
それも、ただの活性化ではない。
“何か”がいる。
そう噂されるほどに。
⸻
そんな町の一角。
黒衣を纏った男――レイヴンは、酒場の窓際から静かに外を眺めていた。
すると、入口の扉が開く。
「……いたか」
入ってきたのはルクスだった。
レイヴンが目を細める。
「なぜここにいる」
ルクスは肩を竦めた。
「指名依頼が入ったんだ。魔族領に近いエルフの大森林付近で、魔物の不審な動きが確認されたから調査して欲しいと」
そう言いながら周囲を見る。
酒場の中には、明らかに実力者と分かる冒険者たちが何人もいた。
レイヴンが静かに呟く。
「お前以外にも、Sランクのパーティ複数……」
視線がさらに奥へ向く。
「それに、あれはSSランクパーティ“蒼月”か」
ルクスも頷く。
「ああ」
「それほどの何かが確認されたのか」
「現時点では不明だ」
「ただ、ギルド側もかなり警戒している」
ルクスが椅子へ座る。
「レイヴンの方では何か異変を感じなかったか」
「森の深いところに侵入を試みていたが、異変は思い当たらんな」
レイヴンは淡々と答えた。
世界最大級の秘境で、強力な結界と精霊に守られたエルフの大森林。
普通の人間なら、深部へ入ることすら難しい。
ルクスが小さく息を吐く。
「そうか」
「俺もしばらくこの町を拠点に滞在するから、情報交換をしよう」
「ああ」
短いやり取り。
だが、二人とも内心では嫌な予感を感じていた。
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そして数日後。
その予感は、最悪の形で現実となる。
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町は壊滅していた。
建物は崩れ、炎が上がり、地面は抉れ、血の臭いが充満している。
倒れる冒険者、動かなくなった兵士、逃げ惑う人々。地獄だった。
その中心、ボロボロになったレイヴンとルクスが立っていた。
全身傷だらけで呼吸も荒い。
それほどの戦闘だった。
レイヴンが吐き捨てるように言う。
「まさかこれほどのやつが出てくるとは思わなかったぞ」
ルクスも苦々しく笑う。
「これほどの存在を“異変”の一言で片付けてほしくはなかったな」
町を破壊したのは二体の魔物。
どちらも百年以上存在が確認されていなかった災厄。
十七厄災。
SSSランクに分類される、世界級災害。
一体は。
《災蝕竜ベルヴァルド》。
巨大な黒竜。腐蝕の魔力を纏い、周囲の生命と魔力を侵食する災厄。
かつて現れた際には、その時代に繁栄していた大国を一夜で滅ぼしたという。
そしてもう一体。
《冥群蟲ネクロファージ》。
無数の黒い蟲の群体。殺しても再生し、死体を喰らって増殖する悪夢。
前回現れた時には、魔族領から人類側に侵攻しようとしていた当時の四天王率いる軍勢を壊滅状態へ追い込んだとされている。
そんな存在が、なぜ同時に現れたのか。
レイヴンが険しい顔で呟く。
「SSSランクに分類されている十七厄災のうち、なぜ二体が同時にこんなところに現れる」
ルクスも剣を支えに立ちながら言う。
「これも欠片の影響なのか?」
答えはない。
ただ、現実だけがあった。
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数時間に及ぶ死闘。
だが、結果は圧倒的だった。
地に伏したのはレイヴンとルクスの方。
周囲でまともに立っている者は、ほとんどいない。
ルクスが悔しげに歯を食いしばる。
「くそっ! なんてやつらだ……!」
レイヴンも荒く息を吐く。
「もうこの町でまともに動けそうなのは俺たちだけのようだ」
その時だった。
森の奥から凄まじい力の波動が放たれる。
空気が震え、魔力が揺らぐ。
ベルヴァルドとネクロファージですら、動きを止めてそちらを見る。
レイヴンが目を細める。
「なんだ……?」
そして、光が現れた。眩い人型の輝き。
その傍には、複数の精霊が浮かんでいる。
しかも、ただの精霊ではない。
ルクスが驚愕する。
「あれはもしかして……大精霊か……?」
風、水、地、光。
それぞれが、圧倒的な存在感を放っていた。
そして、光の中の存在が静かに告げる。
「そこまでにしなさい」
声は穏やか。
だが、有無を言わせぬ力があった。
「これ以上暴れるのであれば、全力で排除します」
その瞬間、ベルヴァルドが低く唸り、クロファージの群れもざわめく。
だが、戦おうとはしなかった。
まるで面倒事を避けるように渋々といった様子で後退していく。
そして、町から姿を消した。
⸻
静寂。
残されたのは壊滅した町。
ボロボロのレイヴンとルクス。
そして、謎の存在。
強い光のせいで輪郭しか見えない。
顔までは分からなかった。
その存在が静かに口を開く。
「本当は出てきたくはなかったのですが、少し忠告しにきました。私の名はシルフェリア」
一拍。
「そこの黒い人。これ以上森を調べるのはやめてください。彼女たちも少し不快に思っています」
視線の先には大精霊たち。
レイヴンはしばらく黙り。
やがて肩を竦めた。
「わかりましたよ。今回は助けてもらったことですし、森からは手を引きましょう」
「そうしてください」
シルフェリアが静かに頷く。
「それでは」
次の瞬間、光が消える。
シルフェリアも、大精霊たちも跡形もなく。
⸻
しばらく沈黙。
やがてレイヴンが苦笑する。
「怒られてしまったな」
ルクスが呆れたように言う。
「何を言ってるんだか」
一拍。
「それにしても、あれだけの大精霊を従えて……何者なんだか」
レイヴンは静かに森を見る。
「おそらくエルフの縁者だろうな。怒られてしまったからには、しばらく森からは離れるか」
ルクスが崩壊した町を見回し、深いため息を吐いた。
「それにしても、この町はどうしようか……」




