第220話
第220話
数日後。ルシアンとクラリスは、アルケシア王国の王都へ到着していた。
アーカディア学園のある巨大都市とはまた違う賑わい。
整備された石畳、美しく並ぶ建物、行き交う貴族の馬車。
アルケシア王国王都――王国の中心。
久々に見る景色だった。
「やっぱり落ち着くわね」
クラリスが小さく息を吐く。
「そうですね」
ルシアンも静かに頷いた。
故郷というほど長くいたわけではない。
だが、それでも帰ってきたという感覚はある。
特にルシアンにとって、この王都は色々な意味を持つ場所だった。
⸻
しばらくして、二人は王都中心部に位置する、巨大な屋敷へ到着していた。
リュクレール公爵家。
アルケシア王国でも屈指の名門。
広大な敷地に重厚な門。そして洗練された庭園。
王族の屋敷と並んでも見劣りしない威容だった。
門をくぐると、使用人たちがすぐに頭を下げる。
「お帰りなさいませ、クラリス様」
「ただいま」
クラリスは自然に返す。
ルシアンも何度か訪れているため、特に止められることもない。
そのまま応接室へ案内された。
そして、しばらくして部屋へ入ってきた男を見て、ルシアンは立ち上がる。
「お久しぶりです。リュクレール公爵」
アレクシス・リュクレール。
アルケシア王国を支える大貴族の一人。
鋭い目をしているが、威圧感だけではない。
冷静さと知性を感じさせる男だった。
クラリスも小さく頭を下げる。
「ただいま戻りました。お父様」
アレクシスは二人を見ると、僅かに表情を和らげた。
「よく帰ってきたな二人とも」
「元気そうで何よりだ」
「ありがとうございます」
クラリスが答える。
アレクシスはソファへ座りながら言った。
「いろいろ話を聞かせてくれ」
⸻
その後、武闘大会の話になった。
「ほう」
アレクシスが興味深そうに目を細める。
「アレス・グランツヴァルトか」
「噂以上だったようだな」
「ええ」
クラリスが頷く。
「正直、別格でした」
ルシアンも静かに口を開く。
「少なくとも現時点では、学園最強でしょう」
「……現時点では、か」
アレクシスが小さく笑う。
「相変わらず面白い言い方をするな、ルシアン君は」
ルシアンは特に否定しなかった。
クラリスが少し楽しそうに見ている。
アレクシスはさらに話を続ける。
「勇者の少年も相当だったと聞いている」
「レオンですね」
「ああ」
王都にも武闘大会の情報はかなり入っていた。
特に勇者関連は注目度が高い。
「まだ未熟だが、将来性は十分か」
「そうですね」
ルシアンは静かに頷いた。
「確実に強くなっています」
その言葉には、はっきりとした実感があった。
⸻
話は武闘大会だけでは終わらない。
王国情勢、学園、魔物活性化、最近の各国の動き。
アレクシスは政治家としても優秀だ。
話の端々から、情報量と洞察力の深さが見える。
そして、その中でも特に興味深そうにルシアンを見ていた。
「ヴェルグレイヴ領もかなり復興してきているようだな」
「兄様が頑張っていますから」
「アルベルト君は優秀だ」
アレクシスは素直に評価する。
「若いのによくやっている」
「ありがとうございます」
ルシアンの声音は穏やかだった。
兄を褒められて悪い気はしない。
⸻
気付けば、かなり長い時間話していた。
外はすでに夕暮れ。
「今日はゆっくり休むといい」
アレクシスが言う。
「ありがとうございます」
その日は、リュクレール公爵家へ泊まることになった。
⸻
そして翌朝。まだ朝靄が残る時間。
ルシアンはすでに出発準備を終えていた。
王都からヴェルグレイヴ領までは、それなりに距離がある。
早めに出た方がいい。
屋敷の前まで来ると、そこにはクラリスがいた。
「……もういっちゃうの?」
少しだけ不満そうな声。
ルシアンは苦笑する。
「兄にも会いたいので」
「そう言われたら引き止められないじゃない」
クラリスが小さく息を吐く。
ルシアンにとって、ヴェルグレイヴ領と兄アルベルトがどれほど大切か。
彼女もよく知っていた。
「気をつけてね」
「また会いましょう」
「ええ」
ルシアンが頷く。
「また休み明けに」
クラリスが微笑む。
「ええ」
その笑顔を見届けてから。
ルシアンは歩き出した。
王都を抜け、街道へ出る。
その先にあるのはヴェルグレイヴ伯爵領。
そして七年間、復興を続けてきた兄のいる場所だった。




