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果てなき世界  作者: 影川明空人
第4.5章 学園1年目 束の間の
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第219話

第219話


 長期休暇初日。


 アーカディア学園は、朝から慌ただしかった。大きな荷物を抱える者、馬車を待つ者、普段は静かな学園都市も、今日はどこか賑やかだ。


「じゃあなレオン!」


 ガイウスが大きく手を振る。


「次会う頃にはもっと強くなってるから覚悟しとけよ!」


 レオンが笑う。


「それはこっちの台詞だ」


「無理しすぎないでくださいね」


 フィアナが静かに言う。


「わかってるって」


 とは言いつつ、たぶん無理をする。


 全員がそう思っていた。


 テオドールも軽く眼鏡を押し上げる。


「休暇明けに鈍っていたら笑えんな」


「そっちこそ」


「あり得ん」


 短いやり取り。


 だが、以前より空気が柔らかい。


 ノエルはいつも通り少し離れた場所にいた。


「ノエルも元気でね」


 フィアナが声をかける。


「……ん」


 小さく頷くだけ。


 だが、それが彼女なりの返事だった。


 そして、レティシアがルシアンを見る。


「じゃあ、休み明けにまた会いましょう」


「ええ」


「レオンのこと、休み明けもよろしくね」


 ルシアンが微笑む。


「もちろんです」


 レオンが苦笑した。


「なんか保護者みたいな会話やめろよ……」


「実際そんなものじゃない?」


「レティシアまで!?」


 小さな笑いが起こる。


 こうしてそれぞれが、それぞれの帰る場所へ向かっていった。



 しばらくして、学園都市の外縁部。ルシアンは一人、歩いていた。


 空は晴天、風も穏やか、絶好の旅日和だ。


(さて)


 ルシアンは静かに目を細める。


(どうせなら少し寄り道しながら帰りますか)


 長期休暇、表向きは帰省。


 だが、ルシアンにはやることが山ほどある。


 邪神教、欠片、魔族、世界の均衡。


 裏で動かなければならない。


 そんなことを考えていた時だった。


「――あら」


 聞き慣れた声にルシアンが振り返る。


 そこにいたのは、長い金髪を揺らす少女。


 クラリス・リュクレール。


「偶然ね」


 柔らかな笑み。


 だが。


(……絶対偶然じゃないですね)


 ルシアンは内心だけでそう呟いた。


 クラリスが自然な動作で隣へ並ぶ。


「ルシアンも帰るんでしょ?」


「ええ」


「一緒に帰らない?」


 あまりにも自然。


 だが、タイミングが良すぎる。


 おそらくかなり前から狙っていた。


 もっとも、幼い頃からの付き合いだ。


 ルシアンも、そのくらいは分かっている。


 そしてクラリスも、ルシアンが気付いていることを理解していた。


 それでも互いに何も言わない。


 そういう距離感だった。


 ルシアンは少しだけ考え。


 すぐに頷く。


「ええ。いいですよ」


 クラリスの表情が、ほんの少し柔らかくなる。


「よかった」


「断られたらどうしようかと思ったわ」


「そんなことはしませんよ」


「そう?」


「ええ」


 並んで歩き出す二人。


 アルケシア王国までは、それなりに距離がある。


 だが、強者である彼らにとって、その程度は問題にならない。



 街道を進む馬車、行き交う旅人。


 休暇シーズンということもあり、道は普段より賑わっていた。


「武闘大会、すごかったわね」


 クラリスがふと呟く。


「特に決勝」


「そうですね」


「アレス先輩、本当に別格だった」


 ルシアンが静かに頷く。


「現時点では、学園最強でしょう」


 クラリスが小さく笑う。


「“現時点では”なのね」


「事実ですから」


 その返答に、クラリスは少しだけ目を細めた。


「……ルシアンって相変わらず、遠くを見てる感じがするわ」


 ルシアンは少しだけ苦笑する。


「昔からでしょう」


「そうね」


 クラリスも笑った。


 幼い頃から、ルシアンはどこか違った。


 同じ景色を見ているようで、もっと先を見ている。


 そんな感覚がずっとあった。


 だが、不思議と嫌ではない。


 むしろ、だからこそ目を離せなかった。



 休憩のため立ち寄った小さな町。


 二人は店先のテラス席へ座っていた。


 クラリスがメニューを見ながら言う。


「ルシアンって実は甘いもの好きよね」


「……否定はしません」


「ふふ」


 クラリスが少し楽しそうに笑う。


「昔、お茶会のお菓子すごい勢いで食べてたものね」


「クラリスが薦めてきたんでしょう」


「だって可愛かったんだもの」


「やめてください」


 ルシアンが少し嫌そうな顔をする。


 クラリスはくすくす笑った。


 しばらくして運ばれてくる焼き菓子。


 クラリスが一口食べる。


「……美味しい」


 少し嬉しそうだった。


 そんな様子を見ながら、ルシアンは思う。


(案外、こういう時間も悪くありませんね)


 争いも、陰謀も、世界の均衡もないただ穏やかな時間。


 それはルシアンにとって、あまりにも遠いものだった。



 夕日が沈み始める。


 並んで歩く二人の影が長く伸びる。


 アルケシア王国は、もう近い。


 その先には、それぞれの帰る場所が待っていた。


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