第218話
第218話
長期休暇開始まで、あと数日。
アーカディア学園は、どこか落ち着かない空気に包まれていた。
普段なら授業や鍛錬へ真っ直ぐ向かう生徒たちも、今日は友人たちと今後の予定を話している者が多い。
「久々に実家帰るわー」
「俺は親父に修行つけられる未来しか見えない……」
「貴族って大変なんだな」
そんな会話が飛び交う。
昼下がり。Sクラスの面々も、中庭で休憩していた。
ガイウスが椅子へ深く座り込みながら言う。
「いやぁ〜、ついに長期休暇か!」
「なんだかんだ早かったな!」
レオンが苦笑する。
「武闘大会あったから余計じゃないか?」
「それはある!」
ガイウスが笑う。
「で、みんなどうすんだ?」
自然と視線が集まる。
最初に口を開いたのはレティシアだった。
「私は一度バルセリオン王国へ戻るわ。王族としての仕事もあるし」
隣のシャロンも頷く。
「私も同行します」
レオンが苦笑する。
「俺も帰ることになった。勇者として挨拶回りとかあるらしくてさ」
ガイウスが目を丸くする。
「うわ、大変そう」
「実際ちょっと面倒そう」
レオンが肩を竦める。
「まあでも、久々に実家帰れるしな」
その顔は少し嬉しそうだった。
続いてテオドール。
「俺も実家へ戻る。父から“帰ってこい”と何度も手紙が来ているからな」
ノエルがぼそりと呟く。
「過保護」
「違う」
即答。
「有能な跡継ぎを心配しているだけだ」
「自分で言うんだ……」
レオンが少し引く。
フィアナも静かに口を開いた。
「私は聖国リュミエルへ戻ります。聖女としての役目がありますので」
やはり、勇者と聖女は自由ではない。
国や教会との関わりが深い。
その責任も大きかった。
ガイウスがふとルシアンを見る。
「ルシアンは?」
「私も故郷へ戻ります」
「アルケシア王国ですか」
「ええ」
短く答える。
ルシアンにとっても久々の帰郷だった。
ヴェルグレイヴ領、兄アルベルト、そして復興の進み具合。
確認したいことは多い。
ガイウスが腕を組む。
「じゃあ俺とノエル以外は別々だな」
ノエルが即座に言う。
「残るとは言ったけど、一緒にいるとは言ってない」
「なんでだよ!?」
ガイウスが抗議する。
「みんないなくなって暇だし、一緒に鍛錬しようぜ!」
「……やだ」
「即答!?」
ノエルはそっぽを向く。
レオンが苦笑した。
「まあ頑張れ」
「お前ら冷たくね!?」
いつものやり取り。
だが、どこか安心する空気だった。
武闘大会での激戦。強者たちとの戦い。
それらを経て、彼らの距離は、確実に以前より近くなっていた。
⸻
ふと、レオンが空を見上げる。
「長期休暇、か」
アーカディア学園へ来てから、もうかなりの時間が経った。
色々なことがあった。
遠征学習、魔族、武闘大会、アレスとの戦い。
そして、届かなかった壁。
レオンは静かに拳を握る。
(もっと強くならないと)
勇者。
その名に見合うようにもっと、もっと先へ。
ルシアンがそんなレオンを横目で見る。
(いい顔をするようになりましたね)
以前よりもずっと強くなっている。
それは力だけではない。心も確実に。
⸻
夕日が差し込む。
長期休暇前の穏やかな時間。
だが、世界は静かに動き続けていた。
誰にも知られない場所で少しずつ、確実に。




