第217話
第217話
アレス・グランツヴァルトとの秘密の戦いから数日後。
ルシアンは何事もなかったかのように学園へ戻ってきた。
「お、帰ってきた!」
ガイウスが大きく手を振る。
「結構長かったな!」
「少し面倒な任務でして」
ルシアンはいつも通り微笑む。
その様子に変わったところはない。
レオンも軽く笑った。
「お疲れ」
「そっちはもう大丈夫なんですか?」
「まあな」
まだ本調子ではない。
だが、オーバードライブの反動もかなり抜けてきていた。
以前のように普通に動けるようにもなっている。
「今度は置いていかれないように鍛えてた」
レオンが苦笑する。
その言葉に、テオドールが小さく肩を竦めた。
「お前だけじゃない」
武闘大会。
あの戦いを見て、何も思わない者などいなかった。
カイン、ゼノス、アルト、そしてアレス。
学園最上位層の戦いは、Sクラスの生徒たちに強烈な刺激を与えていた。
授業は以前と変わらず行われる。
魔法理論、実戦訓練、戦術講義。
だが、どこか空気が違った。
皆、以前よりも明確に強さを求め始めていた。
⸻
そして、時間は過ぎていく。
武闘大会終了後の一ヶ月は、驚くほどあっという間だった。
レオンは以前にも増して鍛錬へ打ち込むようになった。
精霊との連携、勇者の力の制御、そして剣術。
毎日のように訓練場へ通い、汗を流していた。
ガイウスも負けていない。
「うおおおおおっ!!」
巨大な盾を構えたまま突進。訓練用の岩人形を吹き飛ばす。
「もっと硬く!もっと強く!」
方向性はいつも通りだった。
ノエルは相変わらず単独行動が多い。
だが、以前より森へ行く頻度が増えていた。
風属性と闇属性。その扱いがさらに鋭くなっている。
テオドールは研究室に篭る時間が増えた。
武闘大会上位陣の戦闘を思い返しながら、新しい魔法理論を組み立てているらしい。
「やはり魔力制御効率をさらに高める必要があるな……」
ぶつぶつと呟きながら、紙へ術式を書き込んでいた。
フィアナは聖女としての役目もあり、時折学園を空けることが増えた。
それでも、空いた時間にはレオンたちの回復や訓練補助をしている。
そしてルシアン。
彼もまた、普段通りに見えた。
授業へ出席し、時折レオンたちへ助言し、静かに学園生活を送る。
だが、誰も知らないところで時折姿を消していた。
⸻
そして、一ヶ月が過ぎた頃。
学園内の空気が少しずつ変わり始める。
「もうそんな時期か」
レオンが窓の外を見ながら呟いた。
長期休暇。
アーカディア学園では年に一度、約一ヶ月半の長期休暇が存在する。
学園都市出身ではない者も多い。
そのため、この時期は実家へ戻る生徒が多かった。
特に貴族階級の生徒たちは、社交や報告も兼ねて帰還するのが一般的だ。
学園内もどこか浮ついている。
「帰省楽しみだなー」
「お前まだ荷造りしてないのか?」
「やば、忘れてた」
そんな会話がそこかしこで聞こえてくる。
Sクラスの教室も例外ではなかった。
ガイウスが椅子にもたれながら言う。
「いやぁ〜、長期休暇か!」
「どうすっかなぁ!」
ノエルが呆れたように見る。
「何も考えてなかったの?」
「いや、鍛えるのは決まってる!」
「それ以外!」
「……脳筋」
「なんか言ったか!?」
いつものやり取り。
だが、その空気はどこか穏やかだった。
武闘大会での激戦で張り詰めていた空気が、少しだけ緩んでいる。
レオンも小さく笑う。
「まあ、休める時に休んどくのも大事だよな」
そう言いながらも。
彼の目には、まだ強い闘志が残っていた。
アレス、届かなかった壁。
だが、諦めるつもりはない。
(次はもっと強くなってやる)
そんな思いを胸に。
長期休暇前の、穏やかな日々が過ぎていくのだった。




