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果てなき世界  作者: 影川明空人
第4章 学園1年目 武闘大会編
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第216話

第216話


 静寂。


 地面は無数に砕け、抉れ、戦闘の激しさを物語っている。


 その中心でアレス・グランツヴァルトは倒れていた。


 意識を失い、剣を握ったまま。


 それでも、最後まで立ち上がろうとしていた痕跡が残っている。


 その姿を見下ろしながら、ヒューギルが静かに息を吐く。


「……終わったか」


 その隣。


 仮面の男――ルシアンが肩を竦める。


「こんな感じでよかったでしょうか」


「ああ」


 ヒューギルが頷く。


「助かった。これで奴も、大きく成長することだろう」


 ルシアンが視線をアレスの剣へ向ける。


「それにしても、凄まじい剣でしたね」


 静かな声。


「切れ味もさることながら、それ以上に魔力周りの性能が異常だ」


 ヒューギルが小さく笑う。


「ドワーフの里の長である、名工バルグラムに依頼した逸品だからな」


 その名前に、ルシアンの目がわずかに細まる。


(……バルグラム)

(懐かしい名前を聞きましたね)


 脳裏に浮かぶ。


 頑固で、偏屈で。


 だが、鍛冶に関しては間違いなく天才だったドワーフ。


 ルシアンが静かに続ける。


「なるほど。魔力の伝導率もそうですが、それ以上に魔力の吸収率が凄まじい」


 視線が剣へ向く。


「空気中に含まれる魔力を吸収して、使用者へ還元していますね」


「その通りだ」


 ヒューギルが頷く。


「でなければ、あれだけ大技を使い続けて半日も持つわけがない」


 実際、アレスは途中から明らかに魔力消費を度外視した戦いをしていた。


 それでも最後まで戦えたのは、あの剣の恩恵が大きい。


 ルシアンは小さく息を吐く。


「いい武器です。使い手も含めて、将来的にはかなり厄介になりそうですね」


 ヒューギルがわずかに笑う。


「だからこそ、お前をぶつけた」


「……貸し一つ、でしたか」


 ルシアンも小さく笑った。


 そして倒れたアレスを見る。


 外傷はほとんどない。あるのは極度の疲労と魔力枯渇。


「外傷もないですし、彼は放置で構いませんね」


「ああ」


 ヒューギルが頷く。


「私があとで移動させておこう」


「では、私はこれで失礼します」


 ルシアンが背を向ける。


「レオンたちには個人任務と言ってあるので」


 一拍。


「あと数日、自由に動かさせてもらいますよ」


「好きにしろ」


 短いやり取り。


 だがその空気には妙な信頼感があった。


 ルシアンは軽く手を振る。


 影が揺れる。


 次の瞬間には、その姿は消えていた。


 残されたのはヒューギルとアレスだけ。


 ヒューギルは静かに夜空を見上げる。


「……本当に」


「規格外だな」


 誰に向けた言葉でもない。


 だが、その視線の先にいるのは、間違いなくルシアンだった。



 数分後。


「……ん」


 アレスの指先が動き、重い瞼が開く。


 ぼやけた視界、砕けた地面。


 そして、近くに立つヒューギル。


「……ヒューギル様」


 身体を起こそうとして。


「っ……」


 全身が軋む。


 魔力もほとんど残っていない。


 それでも、アレスは周囲を見回した。


「……あの方は」


「もう行った」


 ヒューギルが静かに答える。


 一瞬、沈黙。


 その後、ヒューギルが問いかける。


「今回の経験はどうだった」


 アレスはしばらく黙っていた。


 脳裏に浮かぶ圧倒的技術、届かない剣。


 自分の完成を、真正面から否定してきた男。


 そして、その先にあったもの。


 アレスが小さく笑う。


「凄まじかったです」


 一拍。


「あそこまで通用しなかったのは、剣を習い始めた頃以来でした」


 悔しさはある。


 だが、それ以上に、心は満たされていた。


「上には上がいることを再確認できてよかったです」


 ヒューギルが静かに頷く。


「アレスよ。お前には、まだまだ強くなってもらわねば困る」


 アレスの目に迷いはなかった。


「無論です」


 ゆっくりと立ち上がる。


 身体は重い。


 だが心は、今まで以上に燃えていた。


「私は」


 一拍。


「こんなところで止まるつもりはありません」


 夜風が吹く。


 アレスは静かに剣を握り直した。


「まだまだ上を目指します」


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