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果てなき世界  作者: 影川明空人
第4章 学園1年目 武闘大会編
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第214話 sideアレス

第214話 sideアレス


 剣閃が奔り、火花が散る。


 凄まじい速度の応酬。


 アレス・グランツヴァルトは攻め続けていた。


 一切止まらない。


 火属性による加速。地属性による踏み込み強化。水による身体制御。光による瞬間的な視界攪乱。


 さらにヴァルガンの加護で引き上げられた身体能力、アストレウスの加護による極限の最適化。


 そのすべてを重ねた剣。


 今のアレスは、間違いなく全力だった。


 だが――


「甘い」


 低い声。


 瞬間、アレスの剣が流される。


「っ!」


 重心が崩される。即座に立て直す。


 だが、その隙すら見透かされていた。


 仮面の男の剣が軽く動く。


 ただ、それだけ。


 なのに、アレスは防御を強制される。


 凄まじい技術。


 最小限の動作だけで、完全に主導権を奪われる。


(なんだ……これは)


 アレスは歯を食いしばる。


 攻めているのは自分だ。


 だが戦場を支配しているのは、完全に相手だった。


 男が静かに口を開く。


「たしかに、お前は強い」


 アレスが踏み込む。


 斬る。


 受け流される。


「だが」


 剣が触れる。


 軽い。


 なのにアレスの身体が弾かれる。


「正統派すぎる」


「……!」


 アレスの瞳が揺れる。


 男は続ける。


「あまりにも綺麗だ。無駄がなく、完成されている」


 一拍。


「だから読みやすい」


 アレスがさらに加速する。


 連撃。


 高速で精密。


 だが仮面の男は、すべてを先回りするように処理する。


 剣が届く前に、軌道の“終点”へ剣が置かれている。


 アレスが初めて、焦燥を覚えた。


「……っ」


 男が静かに言う。


「ある程度の相手には通じるだろう。お前ほど完成された剣士はそういない」

「だが」


 剣が交差する。


 アレスの斬撃が逸らされる。


「一定以上の水準を超えた相手には、ただ読みやすいだけの剣だ」


 空気が止まる。


 アレスの表情がわずかに歪む。


 それは初めて向けられる否定だった。


 武闘大会、学園、ルミナス騎士団。


 誰もがアレスを称賛した。


 最強、剣士の完成形、絶対王者。


 だが目の前の男は違う。


 真正面から、その完成を否定してきた。


 アレスが低く言う。


「……なら」

「どうすればいい」


 男は即答した。


「崩せ、型を」


 一瞬。


 アレスの剣が止まる。


 その隙に、男の剣が首元へ触れる。


「戦場に理想形など存在しない。相手はお前の都合通りには動かん。お前は綺麗すぎる」


 アレスが後退する。


 呼吸が乱れる。初めてだった。


 ここまで一方的に“理解される”のは。


 男が静かに続ける。


「守護者やルミナス騎士団の隊長格への勝率は悪いだろう」


 アレスの目が細まる。


 図星だった。


 勝てないわけではない。


 だが、安定しない。


 互角以上に戦える。


 それでもなぜか、最後に押し切れない。


 男が言う。


「それは何も経験差だけではない。お前の剣は読みやすいのだ」


 静かな声。


 だが、一言一言が深く刺さる。


 アレスが低く問う。


「……なら」

「俺は弱いと?」


「違う」


 即答。


「お前は強い。間違いなく、同世代では突出している」


 一拍。


「だが、まだ未熟だ」


 その瞬間、闘技大会での絶対王者は、そこにいなかった。


 いるのは、届かない相手に必死に剣を振るう、一人の男。


 男は静かに続ける。


「お前が今まで戦ってきた敵は、格下ばかりだろう。魔族との戦闘経験もあるそうだが、精々そこらの雑兵程度」


 アレスの目が揺れる。


 たしかにいままで対峙した魔族は弱くはなかった。


 だが本当の意味で“死”を感じたことはない。


 男がさらに言う。


「幹部クラスとは戦ったことがないだろう」


 アレスは答えない。


 沈黙が答えだった。


「よかったな」


 低い声。


「未熟なお前が戦っていれば」


 一拍。


「とうに命はなかっただろう」


 静寂。重い沈黙。


 だが、不思議とアレスの心は折れていなかった。


 むしろ理解してしまった。


(……そうか)


 まだ自分は、未完成だったのか。


 その瞬間、アレスの目が変わる。


 剣を握り直す。


 男がそれを見る。


「まだ来るか」


 アレスが静かに笑う。


「当然だ」


 一歩踏み込む。


「こんなところで止まれるわけがない」


 再び、剣がぶつかった。


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