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果てなき世界  作者: 影川明空人
第4章 学園1年目 武闘大会編
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第212話 sideアレス

第212話 sideアレス


 アーカディア学園――特別修練場。


 守護者や一部の上位戦力のみが使用を許された特殊施設。


 守護者の力によって外の時間が再現された空間。実際には外ではないが、時間感覚を忘れないために再現されている。


 過去に修練に夢中になりすぎて時が経つのを忘れ、餓死しかけたものがいたらしい。


 アレス・グランツヴァルトも、これまで何度かこの場所を訪れていた。


 ルミナス騎士団の隊長格との模擬戦、守護者との手合わせ。


 そして、自らを高めるための修練。


 ここは、アレスにとって“さらに上”へ進むための場所だった。


 周囲には強固な結界、外部からの干渉は完全に遮断されている。


 広大な修練場の中央。


 そこに立つアレスの背には、一振りの剣があった。


 昨年の武闘大会優勝時に与えられた、ドワーフ製の剣。


 名工バルグラムが鍛えた逸品。


 凄まじい切れ味、異常な魔力伝導率。


 さらに、周囲の魔力を吸収し、使用者へ還元する特殊構造。


 超一級品。


 アレスは普段、この剣を使わない。


 強すぎるからだ。


 だが今日は違う。


 本気で戦う、だからこそ持ってきた。


 視線の先、そこには守護者ヒューギルがいた。


 黒衣、肩に止まる二羽の黒いカラス。


 相変わらず、底の見えない存在感だった。


「来たか」


「はい」


 アレスは静かに頭を下げる。


 その目には、隠しきれない高揚があった。


(ヒューギル様が“勝ち目はない”と言い切る相手)


 そんな存在は初めてだった。


 守護者、ルミナス騎士団総長。


 おそらく、そのさらに先に立つかもしれない自分がまだ届かない領域。


(楽しみだ)


 その時空気が変わった。


 アレスの目が細まる。


 気配。


 だが――


(……見えない)


 確かにいる。


 なのに、輪郭が曖昧。


 まるで影そのものが歩いてくるようだった。


 揺らぐ黒。


 そして、一人の男が現れる。


 長身。


 暗色の髪。


 顔を覆う仮面。


 全身を包む異様な威圧感。


(……強い)


 それだけは、一瞬で理解した。


 男は静かに自然体で立つ。


 構えてすらいない。


 なのに――


 隙がない。


 いや、“隙という概念そのものが存在しない”。


 アレスは本能的に察する。


(危険だ)


 今まで感じたことのない感覚。


 武闘大会、守護者、ルミナス騎士団。


 どれとも違う。


 底が知れない。


 ヒューギルが静かに口を開く。


「双方、準備はいいな」


 アレスは剣を抜く。


 空気が変わる。


 魔力が剣へ流れ込む。


 超一級武装。


 それだけで周囲の魔力が震える。


 対する男は何も変わらない。


 ただ立っている。


 アレスが静かに問いかける。


「……名前は聞けないのか?」


 男は短く答える。


「条件だ。詮索はするな」


 低い声、感情が読めない。


 だが、アレスはむしろ口元を緩めた。


「なるほど。嫌いじゃない」


 重心を落とし、剣を構え、呼吸を整える。


 すると、男が口を開いた。


「一つだけ忠告しておく」


 静かな声。


「遠慮はするな。中途半端なら、時間の無駄だ」


 アレスの目が細まる。


「……最初からそのつもりだ」


 魔力が膨れ上がる。


 火、水、地、光。


 さらに――


 戦の神・ヴァルガン、秩序の神・アストレウス。


 加護の力すら解放する。


 空気が震える。


 これが、今のアレス・グランツヴァルトの全力。


 だが男は変わらない。


 一切揺るがない。


 その姿にアレスは初めて理解した。


(……本当に)


 一拍。


(俺より強い)


 恐怖はない。


 あるのは――


 純粋な昂揚だけだった。


 ヒューギルが静かに手を上げる。


「では始めろ」


 瞬間。


 アレスが消えた。


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