第211話
第211話
武闘大会終了から一日。
アーカディア学園には、久しぶりに穏やかな空気が流れていた。
もちろん、完全に熱が冷めたわけではない。
むしろ学園都市のあちこちでは、未だ大会の話題で持ちきりだった。
「やっぱ決勝やばかったよな」
「最後の一撃、闘技場壊れてたぞ……」
「アレス先輩、結局最後まで本気見えなかったな」
そんな声が、そこかしこから聞こえてくる。
学園内の広場。
ルシアンたちは、昼食を取りながら休憩していた。
ガイウスが大きく伸びをする。
「いやぁ〜、終わった終わった!」
「なんか燃え尽きたわ!」
ノエルが冷めた目を向ける。
「うるさい。朝からずっとテンション高いんだけど」
「いいだろ別に!」
ガイウスが笑う。
「お祭り終わった後みたいで楽しいじゃねぇか!」
テオドールが呆れたように息を吐く。
「お前はいつも楽しそうだな」
レオンも苦笑していた。
ただ、まだ本調子ではない。
歩けはする。
だが、動きは明らかに鈍い。
椅子にもたれながら息を吐く。
「……やっぱまだ身体重いな」
その隣で、フィアナがじっとレオンを見ていた。
「だから言ったじゃないですか。まだ無理をしてはいけないと」
レオンが視線を逸らす。
「いや、でもずっと寝てるの暇で……」
「駄目です」
即答。
珍しく強めの口調だった。
「オーバードライブの反動を甘く見ないでください。無理をすると回復が遅れます」
レオンが苦笑する。
「……はい」
ガイウスが吹き出す。
「完全に怒られてるじゃねぇか」
「ガイウスさんもですよ」
「えっ、なんで俺!?」
ノエルがぼそりと呟く。
「うるさいから」
「理不尽!?」
少しだけ笑いが起こる。
武闘大会が終わり。
張り詰めていた空気が、少しだけ緩んでいた。
そんな中、ルシアンが静かに口を開く。
「そういえば」
全員の視線が向く。
「明日から数日ほど、個人任務に行ってきます」
ガイウスが「おっ」と声を上げる。
「個人任務か!珍しいな!」
テオドールも頷く。
「武闘大会後だから、依頼も増えているのだろう」
ノエルが頬杖をつく。
「面倒そう」
ルシアンは肩をすくめる。
「否定はしません」
レオンが笑う。
「気をつけろよ」
「ええ」
短く返す。
自然な流れ。
誰も深く疑わない。
だが――
ルシアンの内心は違った。
(さて……)
静かに紅茶を口へ運ぶ。
(面倒なことになりましたね)
脳裏に浮かぶのは、ヒューギルとの会話。
そして、アレス・グランツヴァルト。
(絶対王者、ですか)
武闘大会では、最後まで底を見せなかった男。
だが。
(まだ未熟)
それもまた事実だった。
ルシアンは小さく目を細める。
(さて、どこまで伸びますか)
⸻
昼食後。
レオンたちはそのまま広場で雑談を続けていた。
「そういや、ルミナス騎士団の隊長たちってどれくらい強いんだろうな」
ガイウスの言葉。
テオドールが答える。
「少なくとも、今の俺たちでは話にならんだろうな」
「特に上位隊は別格らしい」
レオンが少し考える。
「アレス先輩でも勝率悪いんだっけ」
「らしいな」
ガイウスが腕を組む。
「いやぁ、世界広すぎるだろ……」
ノエルがぼそりと呟く。
「だから面白いんじゃない」
一瞬だけ静かになる。
その空気の中。
ルシアンだけは、別のことを考えていた。
(……ルミナス騎士団)
(守護者)
(そして魔族)
均衡が少しずつ崩れ始めている世界。
(時間は、あまり多くない)
夕風が吹く穏やかな日常。
だがその裏側で。
確実に、世界は動き始めていた。
⸻
そして翌日。
特別修練場にて――
絶対王者アレス・グランツヴァルトは。
“本当の壁”と対峙することになる。




