第208話
第208話
武闘大会――決勝戦。
ついに、この時が来た。
闘技場を埋め尽くす観客。
熱気、歓声。
そのすべてが、中央へ集まっていく。
「――決勝戦!」
アナウンスが響く。
「カイン・ブラッドレイ!」
歓声が爆発する。
カインが姿を現す。獣のような鋭い目で剣を肩に担ぎ、堂々と歩く。
対するは――
「アレス・グランツヴァルト!」
今日一番の歓声。
絶対王者。
誰も届かなかった存在が静かに現れる。
その姿に、一切の揺らぎはない。
中央で二人が向かい合う。
カインが笑う。
「何回負けたかわかんねぇな」
荒々しい声。
「だが――」
剣を構える。
「今日こそは勝たせてもらう」
アレスも静かに剣を構える。
「来い」
短い言葉。
それだけで十分だった。
レオニードが手を上げる。
「――始め!」
瞬間。
カインが地属性魔法を使い、地面が隆起する。
いくつもの小さな壁が闘技場に乱立し、視界が遮られる。
「っ!?」
観客席がざわめく。
次の瞬間。
カインが消える。
壁を蹴り、加速。
さらに別の壁を蹴り跳び、方向転換する。予測不能な獣じみた機動。
剣が走り、アレスが受ける。
だが――
少し遅れる。
火花。
観客席。
「速ぇ!!」
「なんだあの動き!?」
ガイウスが身を乗り出す。
「やばっ……!」
テオドールも目を細める。
「完全に軌道を読ませないつもりか」
ノエルがぼそりと呟く。
「ほんと獣」
レオンは真剣な目で見ていた。
以前より見える。
速さ、軌道、戦いの流れ。アレスとの戦いの経験が、確実にレオンを成長させていた。
(……すごい)
カインがさらに加速する。
壁を蹴る。
空中。
急停止し、反転。
斬撃。
普通ではあり得ない動き。
リミッターを外した戦い。
だが――
アレスの目が変わる。
ほんのわずか。
その瞬間から、対応が始まる。
受け、流す、逸らす。
少しずつ、少しずつ。
カインの動きを捉えていく。
カインが歯を食いしばる。
「っ……!」
さらに速度を上げる。
だが、今度は完全に受け切られる。
アレスが小さく笑う。
「やはり」
一撃を受け流す。
「お前たちは面白いな」
「うるせぇ!!」
カインが吠える。
「今日こそ、その顔歪ませてやるよ!!」
猛攻が止まらない。
だが、アレスは崩れない。
そして――
その瞬間。
アレスの手が伸び、カインの腕を掴む。
「っ!?」
完全に予想外。
アレスが静かに言う。
「いままでにない動きだったな」
そのままカインの速度を利用し、叩きつける。
轟音。
「ぐあっ!!」
地面が砕ける。
観客席がどよめく。
カインが血を吐く。
だが、まだ立とうとする。
その姿を見ながら。
アレスが静かに剣を構える。
そして――
今大会、初めて、王者が自ら攻撃に入る。
観客席の空気が変わる。
「……おい」
「まさか」
剣へ膨大な魔力が集まる。
圧倒的。
属性すら付与されていない。
ただの魔力。
だが――
それだけで大気が震える。
レオンが息を呑む。
(……なんだ、これ)
圧。
今まで感じたことのない密度。
カインが震える身体を起こす。
それでも前を見る。
「まだだぁぁぁ!!」
立ち上がる。
ボロボロになりながら。
それでも剣を握る。
アレスが静かに目を細める。
「ありがとう、カイン」
一歩踏み込む。
そして――
絶望的な一撃を振り下ろす。
轟音。
闘技場が揺れる。
土煙によって視界が消える。
観客席が静まり返る。
そして。
ゆっくりと煙が晴れていく。
そこにあったのは――
破壊された闘技場、砕けた地面。
そして、倒れたカイン。
動かない。
アレスが静かに剣を納め、倒れたカインを見る。
その目には、確かな敬意があった。
「お前たちは」
一拍。
「まだまだ強くなるよ」
静寂。
そして、レオニードが手を上げる。
「――そこまで!」
一拍。
「勝者!」
歓声が爆発する。
「アレス・グランツヴァルト!!」
闘技場が揺れる。
絶対王者。
最後まで、誰も届かなかった。
だが、誰もが理解していた。
この大会で確かに、新たな時代が始まりつつあるのだと。




