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果てなき世界  作者: 影川明空人
第4章 学園1年目 武闘大会編
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第204話

第204話


 準決勝――第二試合。


 闘技場を包む熱気は、先ほどまでとはまた違う質へと変わっていた。


 カインとゼノス。


 あれは“破壊”だった。


 だが、これから始まるのは違う。


 技術、制御、完成度の高さ。


 純度の高い剣士同士の戦い。


「――アルト・セイリオス!」


 歓声。


 アルトが現れる。


 無駄のない足運び、静かな目。


 全身から伝わるのは、徹底した制御。


 対して――


「――アレス・グランツヴァルト!」


 闘技場が揺れる。


 王者。


 絶対王者。


 今大会、未だ底を見せていない男。


 中央で二人が向かい合う。


 アルトが静かに構える。


 対するアレス。


 いつも通りの自然体。


 だが――


 そこに隙はない。


 レオニードが手を上げる。


「――始め」


 瞬間、アルトが消える。


 踏み込み。


 速い。


 カインとは違う。あちらが本能なら、こちらは計算。


 最適で最短。最も効率的な軌道を剣が走る。


 だが――


 止まる。


 アレスの剣が、そこにある。


 最小限、ほんのわずかな動き。


 それだけで受け切る。


 アルトは止まらない。


 さらに踏み込み、身体を捻る。普通なら崩れるほどの低姿勢。


 だが、崩れない。軸がぶれない。


 そのまま逆方向へ回転。


 連撃を加える。曲芸のような動き。


 だが、そのすべてに意味がある。


 観客席がどよめく。


「すげぇ……!」


「なんだあの動き……!」


 ガイウスが目を見開く。


「やっぱアルトも化け物だな……」


 テオドールが頷く。


「身体制御が異常だ。普通なら、あの動きで軸が崩れる」


 ノエルがぼそりと呟く。


「でも」


 視線の先。


「崩れてないのは、あっち」


 アレスはその場から動かずに受け流し、逸らす。


 最小限の動き。それだけで、すべて成立している。


(……やはり)


 ルシアンは静かに見ていた。


(アレスは仕掛けない)


 今大会で一度も自分から攻めていない。


 それでも――


 崩れない。


 むしろ攻めている側が押されていく。


 アルトの目が細まる。


(……まただ)


 押しているはずなのに。


 攻めているのはこちらなのに。


 少しずつ、少しずつ。


 自分の方が追い詰められていく。


 何度も経験した感覚。


 武闘大会、模擬戦、何度挑んでも一度も崩せなかった。


 それでも。


(今日こそ)


 アルトが踏み込み、速度を上げる。


 さらに斬撃が加速する。


 だが――


 届かない、崩れない。


「……っ!」


 アルトが距離を取る。


 呼吸が荒い。


「これでもダメか……」


 小さく呟く。


 だが、目は死んでいない。


「ならば――」


 魔力が集まる。冷気によって空気が凍りつく。


 そして左手に、氷の剣が形成される。


 観客席がざわめく。


「二刀流……!?」


 アルトが構える。


「お前を超えるために考えてきた」


 低く、真っ直ぐに。


「今日こそ超えさせてもらうぞ!」


 踏み込む。


 爆発的加速。


 右、左、上下へ連撃。


 止まらない。手数が増える。


 攻撃するたびに速度が増し、攻撃の密度が跳ね上がる。


 今までとは別次元の動きに観客席が息を呑む。


「速ぇ……!」


「見えねぇ……!」


 アレスが初めて後退する。


 一歩、二歩、わずかにだが、確かに。


 アルトの目が見開かれる。


(押してる……!)


 さらに踏み込む。


 全力の連撃。


 だが――


 アレスは崩れない。


 軸が一切ぶれない。


 そして、大きく剣を振るう。


 衝撃でアルトの双剣が弾かれる。


 距離が開く。


 静寂。


 アレスが静かに口を開く。


「素晴らしい。流石だなアルト」


 アルトが息を荒げる。


「……白々しい」


 睨む。


「何が流石だ。全部捌いておいて」


 アレスは表情を変えない。


「本心だ」


 一拍。


「お前は俺の期待を超えてきた」


 静かな声。


「おそらく、カインも超えてきてくれるのだろうな」


「……決勝が楽しみだ」


 アルトの目が鋭くなる。


「もう勝ったつもりか」


 アレスは自然体のまま答える。


「お前は強くなった。昨年よりも」


 そして。


「だが、まだ俺には及ばない」


「まだわからんだろう!!」


 アルトが踏み込む。全速力で決めるために。


 そのための連撃。


 だが――


 アレスの目が、完全に捉える。


「悪いな、アルト」


 一歩、踏み込む。


「もう終わりだ」


 速く、正確に剣が走る。


 氷剣を捉え、砕く。粉砕される。


 そして――


 そのままカウンター。


 アルトに直撃し、吹き飛ぶ。


 空中で意識が落ち、叩きつけられる。


 動かない。


 静寂。


 アレスが剣を下ろす。


「俺以外になら通じただろうが」


 一拍。


「練度不足だ」


 静かな評価。


 そして。


「ありがとう、アルト」


 ほんのわずかに、口元が緩む。


「楽しかったよ」


 レオニードが手を上げる。


「――勝者、アレス・グランツヴァルト!」


 歓声が爆発する。


 だが――


 観客の多くが理解していた。


 王者は、まだ本気ではない。それなのに誰も届かない。


 絶対王者。


 その言葉が、これ以上なく相応しかった。


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