第202話
第202話
準決勝――第一試合。
闘技場は、先ほどまでとは明らかに違う緊張に包まれていた。
残るは四人。
その中でも、この一戦は異質だった。
力と力、純粋な破壊の衝突。
「――カイン・ブラッドレイ!」
歓声。
地を踏みしめるように、カインが現れる。
肩の力は抜けている。だが、その目は獣のように鋭い。
「――ゼノス・ラグナート!」
対するゼノス。
静かに歩く。だが、その内側にあるのは明確な“殺意に近い熱”。
中央で二人が向き合う。
言葉は必要ない。
ただ――
分かっている。
どちらも“最初から全力”だと。
レオニードが手を上げる。
「――始め」
瞬間。
消えた。
「……は?」
音が遅れて届く。
――衝撃。
空気が裂ける。だが、姿が見えない。
ただ、地面が抉れ、空間が震えている。
「今の……何が……」
「見えねぇ……!」
ガイウスが目を見開く。
「おい、全然見えねぇぞ……!」
テオドールが歯を食いしばる。
「……速すぎる」
ノエルも目を細める。
「……ところどころしか追えない」
闘技場中央。
剣と剣がぶつかる。
火花と衝撃波。
だが、それは一瞬で消える。
次の瞬間には、別の場所で衝突している。
――連続。
――連撃。
――連鎖。
ゼノスが踏み込む。
初手から最大火力。
振り抜く。その一撃で空気が歪む。
カインが正面から受ける。
弾き、踏み込み距離を潰す。
ゼロ距離で斬撃。
ゼノスが迎え撃つ。
ぶつかり、爆ぜる。
――速い。
――重い。
――止まらない。
ルシアンは静かに見ていた。
(……なるほど)
ルシアンにはすべて見えている。
軌道から踏み込み、呼吸まで。
(ゼノスは初手から全開で短期決戦を仕掛けている)
対して――
(カインは、それを“受けている”)
普通なら崩れる。
だが、崩れない。
直感と反射で対応している。
理屈ではない動き。
ゼノスの一撃が走る。
死角。
だが――
カインがそこにいる。
受けて返す。
さらに踏み込む。
攻防が逆転する。
観客は何も見えない。
ただ音と衝撃だけが、戦いの激しさを伝えている。
「な、なんなんだよこれ……」
「速すぎるってレベルじゃねぇぞ……」
ゼノスがさらに速度を上げる。
決めに来る。
連撃。
止まらない。
だが――
カインが笑う。
「いいなァ……!」
興奮したような荒々しい声。
そのまま踏み込む。
真正面から避けない、逃げない。
ゼノスの剣とカインの剣が激突する。
その瞬間、ほんの一瞬。
ズレが生まれる。
わずかに、ほんのわずかに。
ゼノスの重心が流れる。
(……そこだ)
カインが踏み込み、斬る。
防御の内側を直撃する。
音が消える。
そして――
ゼノスの身体が宙を舞う。
叩きつけられ、動かない。
完全に沈黙。
レオニードが手を上げる。
「……そこまでだ」
一拍。
「勝者、カイン・ブラッドレイ!」
――静寂。
観客席が、理解できていない。
「……終わったのか?」
「今、何が起きた……?」
「全然見えなかったんだが……」
ガイウスが息を吐く。
「……いや、マジでわかんねぇ」
テオドールが小さく呟く。
「一瞬、だけ見えた」
「だが……」
「完全には追えない」
ノエルも頷く。
「……あれは無理」
ルシアンは静かに目を細める。
(……やはり)
視線の先には倒れたゼノス。
そして――
立っているカイン。
息を吐き、剣を肩に担ぐ。
「……はは」
荒々しく笑う。
「流石、やるじゃねぇか」
倒れた相手に向けて。
その目には、確かな評価があった。
だが――
その戦いを。
ほとんどの観客は、理解できていなかった。
ただ一つ。
分かることがあるとすれば――
この舞台は、すでに“人の領域を超えている”ということだけだった。




