第201話
第201話
武闘大会も残すところは、準決勝、三位決定戦、決勝。
頂点を決める戦いは、いよいよ終盤へと差し掛かっていた。
観客席には、すでに多くの人が集まり始めている。
準決勝当日とはいえ、話題の中心はただ一つ。
「そういえばさ」
一人の観客が口を開く。
「今年の優勝者って、何を願うんだろうな」
「たしか前回優勝のアレスは武器を望んでたよな」
「ああ、それでドワーフ製のすごい剣を手に入れたって話だぜ」
「こういう時は使わなくて、本気の時しか使わないらしいからな」
「ほとんど見たことあるやついないらしいけど」
笑いが起こる。
「どうせ今年の優勝もアレスだろうけどな」
「今度は何を望むんだろうな」
自然な流れ。
誰もがそう思っている。
別格。
それが、あまりにも明確だったから。
⸻
観客席の一角で、ルシアンたちも、その様子を眺めていた。
ガイウスが腕を組みながら言う。
「そういえば、そんな話もあったな」
テオドールが頷く。
「それが目的で戦っている者は少ないがな」
ノエルが興味なさそうに肩をすくめる。
「望みなんて、どうせしょうもないのしか叶えてもらえないでしょ」
その言葉に、ルシアンが静かに口を開く。
「そうでもないようですよ」
ノエルがちらりと視線を向ける。
「前々回優勝者は、貴重な霊薬を授与されたと聞いています」
「それに――」
一拍。
「過去には、平民だった生徒が、恋仲の貴族との婚姻を認めてもらうために優勝し、実現したという話もあります」
ガイウスが目を丸くする。
「そうなのか!?」
テオドールが補足する。
「すべてが叶うわけではないがな。望みの内容によっては制限がある」
ノエルが軽く首を傾げる。
「たとえば?」
ルシアンが淡々と答える。
「守護者にして欲しい、だとか。純粋に“力が欲しい”といった願いは、認められなかったはずです」
テオドールが続ける。
「“力が欲しい”に関しては、代替案として守護者から特殊な技法を授けられた例がある」
「結果的に力は得られたが――」
「本人の望んだ形ではなかったらしい」
ノエルが小さく鼻で笑う。
「ふーん。そうなんだ」
視線を闘技場へ戻す。
「で、結局何を望むんだろうね」
テオドールは肩をすくめる。
「さあな」
ルシアンは何も言わない。
ただ、静かに前を見ている。
(……望み、ですか)
視線の先。
アレスの姿が脳裏をよぎる。
(あの男が、何を望むのか)
それは――
誰にも分からない。
⸻
その頃、医務室。
静かな空間の中、レオンはまだ眠り続けていた。
呼吸は安定している。だが、目を覚ます気配はない。
ベッドの脇に座るフィアナが、静かに見守っている。
「……まだ、ですね」
小さく呟く。返事はない。
ただ、穏やかな時間が流れていた。
⸻
そして――
再び、闘技場に熱が戻る。
観客席が埋まり、ざわめきが広がる。
ついに準決勝。
アナウンスが響く。
「――準決勝、第一試合」
一瞬で、空気が張り詰める。
「カイン・ブラッドレイ」
歓声。
「対」
間。
「ゼノス・ラグナート」
爆発的な歓声。
怪物と怪物。
頂点へ挑む者たちの戦いが始まろうとしていた。




