第199話
第199話
剣がぶつかり、火花が散る。
乾いた金属音が、闘技場に響き続ける。
レオンは、止まらなかった。
踏み込み、斬る。
だが――
すべて受けられる。すべて処理される。
アレスの剣は、最小限しか動かない。
それだけで、すべてが成立している。
(……届かない)
分かっている。
最初から。
それでも止まれない。
「はっ……!」
火を纏う斬撃。続けて水を重ねる。爆ぜるような連撃。
だが――
逸れる。流される。無効化される。
アレスは変わらない。ただ、そこにいる。
それだけで壁になっている。
観客席。
「……やばいな」
ガイウスが低く呟く。
「全部止められてる……」
テオドールが目を細める。
「処理の精度が異常だ」
ノエルは黙って見ていた。
レオンの呼吸が荒くなる。
足が重い。腕が鈍る。
(……まだだ)
剣を握り直す。
踏み込む。
だが――
アレスが一歩出る。その一歩だけで。
間合いが支配される。
剣が振るわれる。
レオンは防ぐ。
だが、重い。
押し切られ吹き飛び、地面を転がる。
「……っ!」
息が詰まる。身体が言うことを聞かない。
それでも――
立ち上がる。膝が震える。
(……ここで)
止まるのか?
違う。
(ここで終わるなら――)
ここまで来ていない。
脳裏に浮かぶ。
これまでの戦い。
オーガ、魔族。
何度も壁にぶつかった。
それでも乗り越えてきた。
(だったら)
視線を上げる。
アレスがいる。
揺るがない、変わらない頂点。
(越えるんじゃない)
(ぶつける)
己の限界を、全てを。
「……行くぞ」
小さく呟く。その瞬間、光が強くなる。
肩の精霊が、震えるように輝く。
空気が変わる。
レオンの身体が、わずかに沈む。
次の瞬間――
爆発する。
踏み込み。
今までとは明らかに違う。
アレスの目が、わずかに細まる。
剣が来る。受ける。
だが――
「……っ」
押される。
初めて、アレスの剣が弾かれる。
観客席がどよめく。
「今の……!」
「弾いた……!?」
レオンは止まらない。
踏み込み、斬る。
速く、重く、正確に、すべてが一段上にある。
火、水、光。すべてが同時に動く。
アレスが防ぐ。
受ける。
だが――
今までとは違う。
“処理しきれない部分”が出る。
踏み込み。連撃が止まらない。
観客席が沸く。
「いける……!」
「勇者……!」
レオンの視界が変わる。
動きが見える。
未来がわずかに重なる。
(ここだ)
踏み込み、斬る。
アレスの防御の“隙”を突く。
血。
今度は、明確にアレスの腕をかすめる。
止まらない。さらに踏み込み、剣を振るう。
アレスが一歩引く。
初めて明確に距離が開く。
「……なるほど」
アレスが小さく呟く。
レオンは止まらない。
限界。
それでも踏み込む。すべてを叩き込む。
今、この瞬間だけ。
互角。
いや――
わずかに押している。
観客が叫ぶ。
「いけぇぇ!!」
レオンが剣を振り上げる。
全力。
決める。
その瞬間――
視界が揺れる。
「……っ」
身体が重い、足が止まる、剣が鈍る。
光が、揺らぐ。
(……終わる)
時間切れ。
オーバードライブ。
たったの10秒。
アレスが踏み込む。
その正確さは変わらない。
剣が来る。
レオンは防ぐ。
だが――
遅い。
防御が間に合わずに吹き飛び、叩きつけられる。
息が止まり、視界が揺れる。
立てない。
だが――
まだ、終わっていない。
レオンは地面を掴み、立ち上がろうとする。
震える。それでも、顔を上げる。
アレスが立っている。
変わらない。
最初からずっと。
頂点のまま。
それでも――
レオンの目は、まだ死んでいなかった。




