第197話
第197話
準々決勝――第四試合。
控え室の扉の前で、ルシアンは一度だけ足を止めた。
隣にはガイウス。テオドール。ノエル。
誰も軽口を叩かない。
それほどまでに、この試合の意味は重い。
レオン対アレス。
誰もが理解している。
これはただの一戦ではない。
「……入りますよ」
ルシアンが短く言い、扉を開く。
中にいたのは――レオン。
椅子に座り、静かに剣を手入れしていた。
光の下位精霊が、肩口でふわりと揺れている。
レオンは顔を上げる。
「来たか」
その声に、緊張はある。だが、逃げてはいない。
ガイウスが口を開く。
「よう、レオン」
「……調子はどうだ?」
軽く聞くが、答えは分かっている。
レオンは小さく笑った。
「どうもこうもないな。相手が相手だし」
正直な言葉。
テオドールが腕を組む。
「先ほど、通路でアレスとルミナス騎士団の隊長格に会った」
その言葉で、空気が少し引き締まる。
「やっぱり、別格」
ノエルがぽつりと呟く。
ルシアンは静かに前に出た。
「ええ」
一言。
「別格です」
はっきりと告げる。
レオンの目が揺れないか、確かめるように。
「どんな攻撃も、通用しないかもしれません」
重い言葉。だが、誤魔化さない。
ガイウスが息を吐く。
「まあ……正直そうだな」
誰も否定しない。それが現実。
ルシアンは一歩近づく。
そして――
「ですが」
声を落とす。
「そんなことは関係ありません」
レオンの目が、わずかに強くなる。
「己の力を信じ、集中してください」
一拍。
「あなたがここまで積み上げてきたものは、間違いなく本物です」
テオドールも続く。
「勝敗は重要だが、それがすべてではない」
ノエルが視線を逸らしながら言う。
「……まあ、ちゃんとやってきなよ」
ガイウスが拳を握る。
「ぶつけてこい。全部な」
短い言葉。だが、それで十分だった。
レオンはゆっくりと立ち上がる。
剣を握る。肩の精霊が、そっと光を強める。
「……ああ」
小さく頷く。
「勝っても負けても」
一度、息を吐く。
「俺にとって、大事な一戦になる」
ルシアンが静かに目を細める。
「ええ」
短く肯定する。
レオンは一歩、扉へ向かう。
手をかける。止まらない。振り返らずにそのまま、控え室の扉を開け、決戦の場に向かう。
外は――
歓声、熱気。
観客席が揺れるほどの音。
「来たぞ……!」
「勇者レオン!」
「アレスとの試合だ!」
レオンが歩き出す。
一歩一歩、迷いはない。
闘技場の中央。
すでに一人の男が立っている。
アレス・グランツヴァルト。
静かに。ただ、そこにいる。
それだけで、場の空気が支配されている。
レオンが止まる。向き合う。
二人の視線が交差する。
言葉はない、必要もない。
レオニードが手を上げる。
歓声が一段と大きくなる。
そして――
決戦が、始まろうとしていた。




