第195話
第195話
準々決勝――第二試合。
闘技場の熱は、先ほどの戦いの余韻を残したまま、さらに高まっていた。
グランヴェルの敗北。カインという“理不尽”の存在。
観客たちは理解してしまった。この舞台にいるのは、ただの強者ではない。
「――第二試合」
アナウンスが響く。
「ゼルヴァイン・クロード」
歓声。現れたのは、整った動きの青年。
無駄がない。構えに隙がない。均整の取れた完成度。
「来たか……」
「安定して強いんだよな」
「崩れねぇタイプだ」
ゼルヴァイン。Sランクでも上位の強さ。
どの分野でも高水準で、欠点が少ない。
そして――
「ゼノス・ラグナート」
空気が変わる。現れた男は、静かだった。
表情は動かない。だが、そこにある圧は明確。
“終わらせる者”。
ゼルヴァインが構える。
慎重に、油断はない。
(こいつは……)
初戦を見ている。短すぎる戦いを。理解する前に終わる。
(長引かせれば、勝機はある)
距離を測り、呼吸を整える。
レオニードの手が上がる。
「――始め」
瞬間。
ゼルヴァインが動く。
間合いを管理し、慎重に詰める。先手は取らずに誘う。
だが――
ゼノスが動く。
一歩。
それだけで距離が消える。
「っ!?」
速い。
だが、それだけではない。
“踏み込みの質”が違う。
剣が振るわれる。ゼルヴァインが受ける。
だが――
想定以上に重い。体勢が崩れる。
(まずい……!)
距離を取る。
だが、もう一歩。詰められる。
剣が来る。二撃、三撃。
速く、重い。無駄がない。
ゼルヴァインは防ぐ。
受け流す。
だが――
追いつかない。
(これが……)
理解する。
“短期決戦型”。
初手から全開。相手に何もさせない。
ゼルヴァインが踏み込み、反撃を試みる。
精度の高い一撃。
だが――
弾かれる。完全に。
そのまま次の一撃が直撃し、吹き飛ぶ。
地面を転がる。
「……っ!」
すぐに立つ。
だが――
間に合わない。
すでに、そこにいる。
ゼノス。
剣が振り下ろされる。
防御。
だが――
砕かれ、膝をつく。呼吸が乱れる。
(……終わる)
そう理解した瞬間。
剣が首元で止まる。
静止。
完全な敗北。
「……勝者、ゼノス・ラグナート」
歓声。
だが、それ以上にざわめき。
「早すぎる……!」
「またかよ……!」
「何もさせてねぇ……」
ゼノスは何も言わない。
そのまま、剣を下ろし、去る。
ゼルヴァインはその場に膝をついたまま。
ただ、息を吐く。
「……届かないか」
短く呟く。
それがすべてだった。
⸻
そして――
「――第三試合」
空気が再び張り詰める。
「クラリス・リュクレール」
歓声。
速さと技術。ここまで、その強さを見せてきた。
対するは――
「アルト・セイリオス」
静かなざわめき。
構えに無駄がない。
“正確無比”。
中央で二人が向かい合う。
クラリスが静かに息を吐く。
(……強い)
対峙しただけで分かる。
だが――
(それでも)
開始と同時に踏み込み、一気に距離を詰める。
レイピアで最短距離の突き。
だが――
弾かれる。
無駄なく、完全に。
アルトが剣を動かす。
最小限。それだけで防ぐ。
(……なら)
角度を変え、二撃、三撃。
速度を上げる。
だが――
すべて防がれる。
無駄なく、正確に。
「……っ」
クラリスの目が細くなる。
さらに速く、踏み込む。
死角から。
だが――
そこにもいる。
剣が置かれている。
受けられる。
(見えている……?)
違う。
(分かっている)
攻撃がすべて。
アルトが一歩踏み込む。
鋭い反撃をクラリスが避ける。
だが次が来る。
無駄がない、正確な連撃。
隙がない。
クラリスは防ぐ。
だが――
押される。
(崩せない……)
速さで上回っているはず。技術も負けていない。
それなのに――
(通らない)
すべて対応される。
読まれているのではない。
“最適解で処理されている”。
「……なるほど」
小さく呟く。理解する。
この相手は――
“ミスをしない”。
だから、崩れない。
クラリスは距離を取る。
呼吸を整える。
そして――
再び全力で踏み込む。
速度を最大まで引き上げる。
すべてを叩き込む。
だが――
アルトはすべて受ける。
流し、弾く。一つも当たらない。
そして、一瞬の隙。
それを見逃さない。
踏み込む。
一撃が直撃する。
クラリスの体勢が崩れる。
次の瞬間、剣が喉元に止まる。
静止。
完全な決着。
「……勝者、アルト・セイリオス」
ざわめき。
「全部防いだ……?」
「クラリスの速さで……?」
「なんだあれ……」
クラリスは息を吐く。
「……完敗ね」
素直に認める。
アルトは何も言わない。ただ、剣を下ろす。
それだけ。
戦いは終わった。




