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果てなき世界  作者: 影川明空人
第4章 学園1年目 武闘大会編
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第192話

第192話


 バルセリオン王国国王、シリウス・バルセリオン。


 その名を持つ男は、柔らかな笑みを浮かべながら、目の前の面々を見渡していた。


「いやあ、こうして顔を合わせるのはいいものだね」


 軽やかな声。


 だが、その視線は一人一人を確かに見ている。


「昨日の試合、お疲れ様」


 その一言に、空気が少し緩む。


 レティシアが軽く顔をしかめる。


「……私は負けましたけどね」


 どこか不服そうに。


 シリウスは肩をすくめる。


「それでもよくやったよ」


 柔らかく返す。


 ガイウスが頭をかく。


「いやー、俺なんてマジで何もできなかったっすよ。手も足も出なかったっす」


 苦笑しながら言う。


 シリウスは楽しそうに笑う。


「それもまた経験だ」


 視線がレオンへ向く。


「レオンはどうだった?」


 レオンは少しだけ息を吐く。


「……ギリギリでしたけどね」


 正直な答え。


 シリウスは満足そうに頷いた。


「いい顔をしている」


 短く、それだけ言う。


 そして、少しだけ表情を引き締める。


「明日は――」


 一拍。


「あのアレス君とだろう」


 レオンの表情がわずかに変わる。


「……知ってるんですか?」


 シリウスは軽く笑った。


「もちろんだよ。これでも国王だからね」


 軽い口調だが、言っている内容は重い。


「優秀な人材に関しての情報は、頭に入れているつもりだよ」


 そして、さらりと言う。


「彼はすでにルミナス騎士団に内定しているしね」


 一瞬、空気が変わる。


「……は?」


 ガイウスが目を見開く。


「ルミナス騎士団って……あの世界トップクラスの騎士団っすか⁉︎」


 思わず声が大きくなる。


 テオドールが静かに続ける。


「魔族領の境に拠点を構え、日夜魔族と戦い続けているという」


 ノエルが肩をすくめる。


「流石だね」


 短い一言。


 だが、それだけで十分だった。


 レオンは黙っていた。理解しているから。


 あの男が――どこに立っているのかを。


 シリウスはその様子を見て、小さく笑う。


「まあ、気負いすぎるな。強い相手と戦える機会は、そう多くない」


 そして、少しだけ目を細める。


「――厳しい戦いにはなるだろうがな」


 その言葉には、軽さはなかった。


 だが、それ以上の言葉は続けない。


 その後も、しばらく雑談が続いた。


 学園の話、各国の話、魔物の動き。


 重い話も混ざるが、シリウスの軽妙な話し方で、場の空気は終始柔らかいままだった。


 やがて――


「さて、そろそろいい時間だな」


 シリウスが手を軽く叩く。


「今日は来てくれてありがとう」


 自然な流れで、解散へと向かう。


「いえ、こちらこそ」


 レオンが頭を下げる。


 それに続いて、他の面々も軽く挨拶をする。


 そのまま部屋を出ようとした時――


「――ルシアン君」


 呼び止める声に足が止まる。


 他の者たちが一瞬振り返るが、ルシアンは軽く手で制する。


「先に行っていてください」


 レオンたちは頷き、そのまま部屋を後にする。


 静寂。


 扉が閉まる。


 シリウスがゆっくりと口を開く。


「君は……アルケシア王国のルシアン・ヴェルグレイヴ君だろう」


 ルシアンはわずかに目を細める。


「……私のことを知っているのですか?」


 シリウスは楽しそうに笑う。


「さっき言っただろう。優秀な人材の情報は、頭に入れているって」


 一歩、近づく。


「それに」


 少しだけ声音を落とす。


「君には感謝しているよ。いつもレオンとレティシアが世話になっているようだしね」


 ルシアンは静かに答える。


「いえ、自分のためでもありますので」


 シリウスは目を細める。


「……ふふ」


 小さく笑う。


「そうかい」


 一拍。


 空気が、わずかに変わる。


「まだあまり公にはなっていないが」


 声音が低くなる。


「魔物の活性化とともに、魔族の動きも活発になってきている」


 ルシアンは何も言わない。


 ただ、聞く。


「近いうちに勇者の力を必要とする時が来るかもしれない」


 静かな断言。


「だから――」


 視線が真っ直ぐに向けられる。


「君には悪いが、そのままレオンの成長の手助けをしてほしい」


 ルシアンは迷わない。


「もとより、そのつもりです」


 即答。


 シリウスは満足そうに頷く。


「助かるよ」


 軽く息を吐く。


「何か困ったことがあれば言ってくれ、私もできる限りサポートしよう」


 ルシアンは軽く頭を下げる。


「ありがとうございます」


 シリウスは笑う。


「呼び止めて悪かったね」


 そして、少しだけ柔らかい声になる。


「今後も娘たちを頼むよ」


「……承知しました」


 短く応じる。


 それで会話は終わった。


 ルシアンが部屋を後にする。


 扉が閉まり、静寂が戻る。


 シリウスは一人、軽く息を吐いた。


 そして、小さく呟く。


「……掴みどころの無い、不思議な男だ」


 その目は、どこか楽しげだった。


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