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果てなき世界  作者: 影川明空人
第4章 学園1年目 武闘大会編
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第183話

第183話


 崩れた大地。歪んだ空間。戦いの余韻が、まだ空気に残っている。


 ゼルキスが去ったあとも、その場には静寂が戻らなかった。


 張り詰めたままの空気の中――ヒューギルが口を開く。


「……さっき使った力は」


 一歩、近づく。


「風の神・シルヴァリオン、闘いの神・ベルグラード、影の神・ラウネリス」


 正確に言い当てる。


「……あの方々の力は、失われたはずだ」


 重い声。


 疑問ではない。確信に近い問い。


 ルシアンは静かに視線を向ける。


「なぜ知っているのですか?」


 ヒューギルの目が細くなる。


「私は遠い昔……神々が地上に顕現していた時代から生きている」


 淡々とした声だが、その重みは計り知れない。


「邪神が現れ、神々が力を失う直前に――私は守護者としての役割を与えられた」


 空気が変わる。


「だから、神々の気配はよく知っている」


 さらに一歩、踏み込む。


 視線が突き刺さる。


「なぜお前から、あの方々の気配がするのだ。加護ではない……それ以上のものが」


 沈黙。


 ルシアンはわずかに息を吐く。


「それは――」


「――そこから先は、私が説明しましょう」


 その瞬間。


 光が満ちた。


 突如として、空間そのものが優しく包み込まれる。


 荒れた大地も、歪んだ空気も、その光に触れた瞬間、静まっていく。


 ヒューギルが即座に膝をついた。


「……なぜ、貴方様が……」


 声に、明確な敬意が滲む。


 ルシアンもまた、その存在を見上げる。


 光の中に立つ、一人の女性。


 穏やかで、柔らかく、しかし圧倒的。


 ――光の神・ルミナリア。


 その視線が、二人へと向けられる。


「私は、他の神々よりも信仰心を集めやすいので……」


 静かな声。


「こうして顕現できるくらいの力を、わずかに取り戻しています」


 一歩、近づく。


「もっとも、長時間は無理ですので……普段は神託という形になりますが」


 微笑む。


「貴方たちとは、直接お話しした方がよいと思いました」


 ヒューギルは深く頭を下げる。


「……ルミナリア様」


 ルミナリアは静かに頷く。


「ヒューギル」


 その名を呼ぶ。


「長い時の間、守護者として世界の均衡を保ってくれてありがとうございます」


 柔らかな言葉。


 だが、その重みは計り知れない。


 ヒューギルは顔を上げることなく応じる。


「……勿体なきお言葉。この身に与えられた役目を果たしてきただけにございます」


 短く、しかし確かな誇りがある。


 そして、わずかに間を置き――


「しかし……よろしいのですか」


 問い。


 ルミナリアは静かにルシアンへ視線を向ける。


「よいのです」


 迷いなく。


「ルシアンは、すでに“均衡”の話を知っています」


 そして、初めて直接ルシアンを見る。


 柔らかな微笑み。


「初めまして、ルシアン。いつもフィアナが世話になっていますね」


 穏やかな声音。


 そして、少しだけ表情を緩める。


「それに……私たちの無茶な願いにも応えてくれて、ありがとうございます」


 ルシアンは一瞬だけ目を伏せる。


「いえ」


 静かに答える。


「たしかにアストレウス様にお願いはされましたが……」

「自分の意思でやっていることですので」


 ルミナリアの瞳がわずかに揺れる。


「……そうですか」


 小さく息を吐く。


 ヒューギルが口を開く。


「どういうことなのでしょうか」


 視線がルシアンとルミナリアの間を行き来する。


「ルシアンとは……何者なのですか」


 ルミナリアは一瞬だけ空を見上げる。


 そして、静かに言う。


「いま、徐々に邪神の欠片が集まりつつあるのは知っていますね」


「はい」


 ヒューギルが答える。


「一つはアーカディアで守っています」


 ルミナリアは首を振る。


「もうすでに……六つ集められています」


 空気が凍る。


 ヒューギルの表情がわずかに変わる。


「……六つですか」


 ルミナリアは続ける。


「我々は、もはや以前のような力を持っていません。その状況で邪神が復活してしまった場合……」


 一拍。


「この世界の均衡は崩れ、世界は崩壊します」


 断言。


 揺るがない事実。


 そして――


「それを防ぐために」


 ルシアンを見る。


「我々は、この者に託しました」


 ヒューギルの視線がルシアンへと突き刺さる。


 ルミナリアは続ける。


「やり方は任せる、と彼には言われたそうですが……」


 静かに。


「ルシアン、貴方の進む道は、成功すれば……たしかに世界は恒久的に救われるでしょう」


 だが。


「しかし」


 その声が、わずかに沈む。


「そこに、貴方は含まれません」


 重い言葉。


 逃げ場のない現実。


「それでも……やるのですか?」


 問い。


 ルシアンは、迷わなかった。


「世界が救われるなら――」


 静かに。


「私も救われるのです」


 ヒューギルが息を呑む。


 ルシアンは続ける。


「勇者や聖女……将来的に人類の力となる人材を育てること。それが、いまの私の目的です」


 視線を遠くへ向ける。


「だからこそ、アーカディアは都合のいい場所なのです」


 完全に覚悟を決めた声。


 ヒューギルは何も言えない。


 ルミナリアが静かに頷く。


「……道を変えるつもりはないのですね」


「はい」


 即答。迷いはない。


 ルミナリアは小さく目を閉じる。


 そして――微笑む。


「わかりました、ルシアン。何か困ったことがあれば、強い思念を持って私に語りかけてください。できる限り、貴方の助けとなりましょう」


 ルシアンは軽く頭を下げる。


「ありがとうございます」


 ルミナリアはヒューギルへ視線を向ける。


「ヒューギル。貴方も彼のことを、出来る限りサポートしてあげてください」


 ヒューギルは深く頭を下げる。


「……承知致しました、ルミナリア様」


 ルミナリアは微笑む。


 その光が、少しずつ薄れていく。


「そろそろ時間です」


 穏やかな声。


「あまり無理をしすぎないようにね」


 最後に、ルシアンを見る。


 優しく。


 そして――消えた。


 光が消え、静寂が戻る。


 残るのは、二人。


 ヒューギルはゆっくりと立ち上がる。


 そして、ルシアンを見る。


 その目は、先ほどまでとは明らかに違っていた。


 疑いではない。理解でもない。


 ――覚悟を見た者の目。


「……なるほどな」


 短く呟く。


 ルシアンは何も言わない。


 ただ静かに、前を見ていた。


 世界の均衡、邪神。


 そして――自らの役割。


 すべてを背負ったまま。


 戦いは、まだ終わっていない。


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