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果てなき世界  作者: 影川明空人
第4章 学園1年目 武闘大会編
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第182話

第182話


 空が、裂けていた。


 ヒューギルの張った結界の内側――本来ならば外界から切り離され、安定しているはずの空間が、まるで耐えきれないと悲鳴を上げているかのように歪んでいる。


 その中心。


 ルシアンとゼルキス。


 互いに、完全に“枷”を外していた。


 先に動いたのはルシアン。


 踏み込み。


 その一歩で空気が圧縮され、次の瞬間には姿が霞む。


 斬撃。


 風を伴い、空間そのものを裂く一閃。


 だが――


 ゼルキスは、消える。


 風が通過する“前”に、そこにいない。


 直後、背後。


「遅いよ」


 軽い声。拳が振り抜かれる。


 ルシアンは振り向かずに重力魔法を使う。


 背後の空間が沈み、拳の軌道がわずかに歪む。


 その隙に身体をひねり、回避。


 同時に――雷。


 至近距離で炸裂し、閃光が空間を埋める。


 だがゼルキスは笑う。


「そうそう、それそれ!」


 雷の中を抜ける。


 感電など関係ない。


 今度はゼルキス。


 暴風が巻き起こる。


 ただの風ではない。空間ごと削る“刃”。


 ルシアンが腕を振い、氷壁を作る。


 だが一瞬で砕かれる。


 攻撃が直撃し、吹き飛ぶ。


 だが空中で体勢を立て直す。


 影が伸び、無数の影の刃がゼルキスへと絡みつき拘束する。


 だが――


「甘い」


 闇。


 影が“飲まれる”。


 ラウネリスの力を、闇で上書きする。


 ルシアンの瞳が細くなる。


 次の瞬間、地面が隆起し、岩の槍が突き上がる。


 さらに水が収束し、刃となって斬りかかる。


 風がそれを加速させる。


 隙を与えない。


 だが――


 ゼルキスは笑っている。


 すべての攻撃の“間”を抜ける。


 当たらない。届かない。


 だが――


 ルシアンは止まらない。


 踏み込む。


 ベルグラードの力が身体を引き上げる。


 速度がさらに増す。剣が交差する。


 初めて――


 真正面からぶつかる。


 衝突により、空気が爆ぜる。


 その余波だけで地面が削れる。


 ゼルキスの口元が歪む。


「いいねぇ!」


 力が増し、押される。


 だがルシアンも押し返す。


 互角。


 だが――


 次の瞬間、空間が歪む。


 ゼルキスが消える。


 空間転移により、再出現。


 真横からの斬撃が直撃する。


 血が舞い、ルシアンが後退する。


 だがそのまま雷撃を叩き込む。


 ゼルキスも被弾。


 焼ける。


 だが――笑う。


「最高だ!」


 完全に楽しんでいる。


 ルシアンも魔力をさらに引き上げる。


 風が暴れ、重力が沈み、光と闇がぶつかり、空間が軋む。


 もはや“戦闘”ではない。


 世界の一部がぶつかり合っている。


 ヒューギルがその様子を見ていた。


(……ここまでとは)


 想定以上。結界が軋み、亀裂が走る。耐えきれない。


 次の瞬間――


 破砕。


 結界が崩れ、空間が揺らぐ。


 その瞬間。


「そこまでだ」


 ヒューギルの声。


 絶対の命令。空気が凍る。


「これ以上はこの地がもたん」


 静かな、だが確実な判断。


 ルシアンが動きを止める。


 ゼルキスも――止まる。


 そして、心底残念そうに肩を落とす。


「えー」


 子供のように。


「せっかく楽しくなってきたところだったのに」


 だがすぐに笑う。


「でもさ」


 ルシアンを見る。


「ルシアンが俺の想像を超えて強くなってくれてるのが分かった」


 嬉しそうに。


「楽しみが増えたよ」


 一歩、下がる。


「しばらく退屈しなくてすみそうだ」


 振り返る。


「じゃあ約束通り俺は帰るね」


 軽く手を振る。


「また遊ぼう、ルシアン」


 そのまま――消える。


 空間ごと。


 残るのは静寂、荒れ果てた大地。


 そして――ルシアンとヒューギル。


 ヒューギルが静かに口を開く。


「さっき使った力は……」


 一歩、近づく。


「風の神・シルヴァリオン、闘いの神・ベルグラード、影の神・ラウネリス」


 正確に言い当てる。


「……あの方々の力は、失われたはずだ」


 ルシアンの瞳が揺れる。


「なぜ知っているのですか?」


 ヒューギルは答える。


「私は遠い昔……神々が地上に顕現していた時代から生きている」


 空気が変わる。


「邪神が現れ、神々が力を失う直前に……私は守護者としての役割を与えられた」


 静かに。


「だから神々の気配はよく知っている」


 一歩、踏み込む。


 視線が突き刺さる。


「なぜお前から、あの方々の気配がするのだ。加護ではない……それ以上の」


 沈黙。


 ルシアンが口を開こうとする。


「それは――」


 その瞬間。


 空気が変わる。


 柔らかく、それでいて絶対的な光が場を満たす。


 時間が、止まる。


 声が響く。


「――そこから先は、私が説明しましょう」


 光の神・ルミナリア。


 その存在が、静かに介入した。


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