第181話
第181話
空が裂ける。
結界の内側、魔力が渦巻き、世界そのものが歪んでいた。
ルシアンの魔法が空間を埋め尽くす。雷が走り、炎が爆ぜ、氷が突き、風が裂ける。重力が沈み、地が持ち上がり、光と闇が衝突する。
だが――
届かない。
ゼルキスはそのすべての“直前”にいない。
「まだだね」
軽い声。振り返る前に、背後にいる。
ルシアンは即座に剣を抜き、受ける。
重い一撃を押し返し、距離を取る。そして、踏み込み連撃。
だが――
届かない。
わずかにずれるだけで、すべてが空を切る。
「もっと見せてよ」
楽しそうな声。
「こんなものじゃないんでしょ」
一歩、近づく。圧が増す。
「これじゃ俺の退屈は壊せないよ」
――足りない。
ルシアンは息を吐く。
一瞬だけ目を閉じる。
そして、開く。
決断。
(……なら)
魔力が変わる。
風が唸る。
ただの風ではない。空間を裂く意思を持つ暴風。
――風の神・シルヴァリオン。
次の瞬間、身体が軽くなる。
いや、違う。
強くなる。
踏み込みが変わる。速度が上がる。反応が研ぎ澄まされる。
――闘いの神・ベルグラード。
さらに――影。
足元から伸びる影が刃となり、ゼルキスへと襲いかかる。
――影の神・ラウネリス。
三柱の力が重なり、質が変わる。
ルシアンが踏み込む。
今までとは違う速さ。
風がゼルキスの退路を断つ。
影が拘束する。
そこへ――剣。
斬撃が届き、ゼルキスの頬をかすめる。
さらに追撃。雷が落ち、炎が爆ぜ、氷が貫く。
連撃。
確かに――届いている。
ヒューギルの目がわずかに細くなる。
「……これは」
ゼルキスが、笑う。
「いいね!」
嬉しそうに。
だが――次の瞬間。
消える。視界から、完全に。
「っ――」
頭上に気配。
反応するより先に――
ゼルキスの拳が直撃する。
「――ッ!!」
ルシアンの身体が吹き飛ぶ。
空中で回転し、地面へ叩きつけられる直前で体勢を立て直すが――衝撃は抜けない。
地面を滑り、止まる。息が詰まる。
「……っ……」
立ち上がる。
だが、ダメージは明確。
ゼルキスがゆっくりと降りてくる。
「悪くないよ」
軽く手を振る。
「ちゃんと強くなってる」
一歩。近づく。
「でもさ――」
その目が細くなる。
「まだ足りないよ」
断言。
絶対的な差。
ルシアンの瞳が揺れる。
(……これでも届かない)
歯を食いしばる。
(なら――)
決断。
(こうなったら)
意識を内へ。
⸻
――別視点。
森の奥。
静寂の中、レイヴンが目を開く。
(すまない、レイヴン。統合して欲しい)
短い。
(急だな。どうした)
(いまゼルキスと戦っているが、出力が足りない)
一瞬の沈黙。
(ゼルキスか……)
そして、ため息。
(わかった)
小さく笑う。
(エルフの森の調査は後でもいいしな)
存在が解ける。
統合。
⸻
戻る。
ルシアンの魔力が――跳ね上がる。
質が変わり、密度が変わる。
“重さ”が変わる。
ゼルキスの目が輝く。
「おっ!」
明確な変化。今までとは別物。
ついに――並ぶ。
「いいね!」
心からの声。
ルシアンが踏み込む。
今度は消えない。
剣が届く。
斬る。
血が舞う。
ゼルキスの動きが、わずかに止まる。
「……ははっ」
笑う。
さらに魔力が膨れ上がる。
「ここまで本気を出せそうなのは、久しぶりだよ!」
楽しそうに。
「最高だ、ルシアン!」
空が裂け、大地が鳴る。




