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果てなき世界  作者: 影川明空人
第4章 学園1年目 武闘大会編
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第179話

第179話


 ――武闘大会、前日。


 学園都市は、普段以上の活気に包まれていた。


 通りには露店が並び、遠方から訪れた観客の姿も多い。宿屋はどこも満室。広場では明日の対戦予想が飛び交い、あちこちで熱を帯びた議論が続いている。


 だが――


 その喧騒の奥には、確かな緊張があった。


 誰もが知っている。


 明日から始まるのは、ただの催しではない。


 “本物”の戦いだと。


 訓練場。


 日が傾き、長い影が伸びる中、レオンは最後の調整を終えていた。


 肩で息をしながら、剣を下ろす。


「……こんなもん、か」


 完全ではない。だが、これ以上は削りすぎになる。


 ノエルが壁にもたれたまま呟く。


「……無理しすぎ」


 テオドールも腕を組んだまま頷く。


「今は仕上げる段階だ。これ以上は消耗するだけだな」


 レオンは苦笑する。


「分かってる。でも――」


 一瞬、言葉が止まる。


 そこに、ルシアンが歩み寄る。


「焦る必要はありません」


 静かな声。


「ここまで来たのなら、あとは“出すだけ”です」


 レオンが視線を向ける。


「……勝てると思うか?」


 率直な問いに、ルシアンは少しだけ目を細める。


「難しいでしょう」


 だが――


「ですが」


 一歩、近づく。


「あなたは、何度もそれを覆してきたはずです」


 静かに、だが確信を込めて言う。


「……やるしかないでしょう」


 その言葉に、レオンは一瞬だけ目を見開き――


 そして笑った。


「ああ」


 小さく拳を握る。


 その肩口で、淡い光がふわりと揺れた。


 ――光の下位精霊。


 言葉はない。ただ、寄り添うようにそこにいる。


 ルシアンはその様子を一瞥し――


 ふと、空を見上げた。


 ――違和感。


 遥か上空。


 誰も気づかないほど微細な、だが明確な“異常”。


(……なぜここに)


 表情は変えない。


 だが、次の瞬間には踵を返していた。


「少し外します」


 それだけ言い残し、訓練場を後にする。


 レオンが振り返る。


「ルシアン?」


 だが、その背はすでに遠ざかっていた。



 学園都市の上空。


 人の気配が届かない、高み。


 そこに――“それ”はいた。


 黒い外套を揺らし、空中に佇む影。


 魔族四天王ゼルキス。


「やぁ、ルシアン」


 軽い調子の声。


 まるで旧友にでも話しかけるかのように。


 ルシアンは上昇をやめ、静かに立ち止まる。


「……何をしにきた」


 低い声に、ゼルキスは肩をすくめる。


「少し前に殺した連中がさ、面白いこと喋っててさ。いまここにある学園で、強いやつを決める戦いをやってるんでしょ?」


 口元が歪む。


「楽しそうだから、俺も混ぜてもらおうかなって」


 ルシアンの視線が鋭くなる。


「お前がこの都市に現れたら、大騒ぎでそれどころじゃなくなる」


「えー、でもさ」


 ゼルキスは楽しげに笑う。


「てことは、俺を倒しに強い奴らが来てくれるんだろ?」

「前に守護者だっけ?あいつらともやり合ったけど、少しは楽しかったなぁ」


 あっさりと言う。


「まぁ、結局殺しちゃったんだけどさ」


 軽い。


 あまりにも軽い。


 命の重さなど、そこにはない。


「それとも――」


 視線が細くなる。


「今度こそ、君が相手してくれる?」


 一歩、距離が縮まる。


「君が相手してくれるなら、今回は我慢してあげるよ」


 沈黙。


 ルシアンの内側で、思考が高速で巡る。


(……正直言って)

(今の状態では、勝てない)


 子どもの頃と比べれば圧倒的に強くなった。


 だが――


(せいぜい、SSSランクにギリギリ届く程度)

(だが、こいつは……)


 確実に、それ以上。


(どうする……)


 その時。


「受けてやればいいだろう」


 ――声。


 いつの間にか、そこに浮遊していた。


 ヒューギル。


 ルシアンとゼルキス、両者がわずかに目を見開く。


(……いつの間に)


 ゼルキスが笑う。


「へぇ……全然気づかなかったよ。たしか君には前に会ったことあるね」


 ヒューギルは視線を動かさない。


「四天王ゼルキスよ、今のやりとりは聞かせてもらった。このルシアンと戦えれば、今日のところは引くのだな」


 ゼルキスは即答する。


「もちろん!」

「いま俺が一番興味あるのはルシアンだからね。俺は強くなったルシアンを見たいだけだから、殺しはしないよ」


 ヒューギルは静かに頷く。


「もし殺しそうになれば、私が介入する」


 ゼルキスが肩を揺らして笑う。


「それはそれで面白そうだけど」


 そして、ルシアンへ視線を戻す。


「で、どうするルシアン?俺と戦ってくれる?」


 沈黙。


 逃げ場はない。


(……断れないか)


 ヒューギルの存在。ゼルキスの脅威。


 どちらも無視できない。


 ルシアンは静かに息を吐く。


「……わかった。ただし、場所は変えさせてもらう」


 ゼルキスの笑みが深まる。


「もちろん!ここじゃ他にも邪魔が入りそうだしね」


 空気が変わる。


 戦いの気配が、静かに膨れ上がる。


 明日、武闘大会が始まる。


 その前夜――


 誰にも知られぬ場所で。


 “本当の戦い”が、始まろうとしていた。


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