第174話
第174話
炎が唸る。
グランヴェルの剣から放たれる斬撃は、もはやただの斬撃ではなかった。振るうたびに火が爆ぜ、空気そのものを焼き裂く。
レオンがそれを受ける。
弾く。
避ける。
だが――
「っ……!」
完全には捌ききれない。
肩を掠める。腕を焼く。
踏み込みの一瞬を狙われ、腹部に衝撃が走る。
距離を取る暇もない。
グランヴェルは止まらない。
「フレアスラッシュ」
横薙ぎ。
炎が帯となって走る。
レオンが剣で受ける。だがその瞬間、爆ぜる。
衝撃が倍加し、レオンの体が弾かれる。
「ぐっ……!」
着地。
だが足が揺れる。
観客席がどよめく。
「押されてる……!」
「やっぱりグランヴェルか……!」
ルシアンは静かに見ていた。
(……圧倒的ですね)
火力、剣速、判断。
すべてにおいてグランヴェルが上。
レオンは食らいついている。
グランヴェルが踏み込む。
炎を纏った斬撃が振り下ろされる。
レオンが避ける。
だがその直後――
爆発。
余波で体勢が崩れる。
さらに追撃。
「バーストフレア」
至近距離。爆ぜる炎が直撃する。
レオンが吹き飛び、地面を転がる。
立ち上がるが、呼吸が荒い。
全身に傷が増えていく。
(……このままじゃ)
レオンの脳裏に危機感が走る。
加護の力は、確かに働いている。
軌道が見える。タイミングが分かる。
だが――
(足りない)
出力が足りない。受けきれない。押し返せない。
グランヴェルが笑う。
楽しんでいる。
「どうした、勇者」
炎を纏いながら歩く。
「その程度か?」
レオンが歯を食いしばる。
踏み込む。
斬る。
だが受け止められ、弾かれる。
さらに斬撃が返ってくる。
避けようとするが、間に合わず。肩を裂かれる。
「っ……!」
血が滲む。
ノエルの目がわずかに細くなる。
「……まずい」
その時だった。
レオンの視界の端に、光が揺れる。
小さな、淡い光。
最初はただの残像のように見えた。
だが――
(……?)
それは確かに、そこに“いた”。
小さな人型。
透き通るような輪郭。
優しく、柔らかい光を纏っている。
笑っている。言葉はない。
だが――
はっきりと分かる。
“力を貸す”という意思。
レオンの体に、光が触れる。
次の瞬間――
温もり。
痛みが、わずかに引く。
重かった体が、少しだけ軽くなる。
魔力が満ちる。
(……なんだ、これ……)
困惑。
だが――
悪いものではない。
むしろ、自然に受け入れられる。
ノエルがわずかに目を見開く。
「……精霊?」
ぽつりと呟く。
テオドールが反応する。
「何だと?」
「……いる」
ノエルがレオンを見つめる。
「光の……下位精霊」
ルシアンもわずかに目を細める。
(……なるほど)
精霊の加護。
しかも自発的な介入。
グランヴェルが眉をわずかに動かす。
「……何か変わったな」
気配。
出力。
ほんの僅かだが、違う。
レオンが剣を構える。
先ほどまでとは違う。
呼吸が整う。
目が、まだ死んでいない。
「……まだ、いける」
小さく呟く。
グランヴェルの口元が歪む。
炎がさらに強く燃え上がる。
「いい」
笑う。
「そうでなくてはな」
火を纏い、踏み込む。
レオンも動く。
光を纏い、前へ出る。
炎と光がぶつかり、衝突する。
爆ぜ、空気が震える。
観客席が総立ちになる。
「まだやるのか……!」
「止まらねぇ……!」
ルシアンは静かに見ていた。
(……勝負は、次で決まりますね)
火と光。
二つの力が、激突する。
決着は――
すぐそこまで迫っていた。




