第173話
第173話
決勝戦直前。
闘技場の熱気は最高潮に達していた。
観客席の一角。
ルシアン、ノエル、テオドールが静かに闘技場を見下ろしている。
そこへ――
「よぉ」
軽い声。
ガイウスが歩み寄ってくる。その隣にはレティシア、そしてその後ろにシャロン。
三位決定戦を終えたばかりの面々だった。
ルシアンが視線を向ける。
「2人ともお疲れ様でした」
ガイウスが肩を回しながら笑う。
「昨日よりはマシとはいえ、酷い目にあったぜ」
その言葉に、レティシアが小さく肩をすくめる。
「仕方がないでしょ」
淡々とした口調。
「あなたの防御が思ったより硬かったんだから」
少しだけ視線を向ける。
「ああやって魔法を撃ち込みまくるしかなかったのよ」
ガイウスが苦笑する。
「容赦なかったよな……」
テオドールが腕を組んだまま言う。
「ガイウスもしばらくは耐えていたんだがな」
ノエルが短く続ける。
「……流石にあれは無理」
ガイウスが頭を掻く。
「でも悔しいぜ」
少しだけ視線を落とす。
「せっかくここまで残ったのに、いいとこなしだった……」
その言葉に、シャロンが静かに口を開く。
「ガイウスさんは頑張りましたよ」
穏やかな声。
「正面からあれを受け続けることができる方はそう多くありません」
ガイウスが一瞬だけ驚いたような顔をして、すぐに笑う。
「……そう言ってもらえると、少しはマシだな」
レティシアがふっと笑う。
「実際、簡単な相手じゃなかったわよ」
その一言に、ガイウスは少しだけ救われたように息を吐いた。
ルシアンはそれを横目に、闘技場へと視線を戻す。
(……始まりますね)
中央にレオニードが立つ。
「――一年生武闘大会、決勝戦を行う」
歓声が爆発する。
「レオン対グランヴェル」
名前が呼ばれ、入口から二人が現れる。
グランヴェル。
レオン。
対照的な二人が、中央へと歩み出る。
互いに視線を交わす。
余計な言葉はない。
審判が手を上げる。
「――始め!」
その瞬間、レオンが動いた。
躊躇はない。
最初から――
全開。
身体が光を帯びる。勇者の力。
強化された脚で地を蹴り、一瞬で間合いを詰める。
剣が振るわれる。
グランヴェルが受ける。
金属音。
重い衝撃。
だがレオンは止まらない。
連撃。
一撃、二撃、三撃。
すべてが鋭く、速い。
観客席がどよめく。
「速ぇ……!」
「いきなり全開か!」
グランヴェルはそれを受ける。
捌く。
最小限の動きでいなす。
だが――
押されているように見える。
レオンがさらに踏み込む。
斬る、詰める。
間を与えない。
ルシアンの目が細くなる。
(……互角)
勇者の力を使った状態。
この瞬間だけ見れば、確かに並んでいる。
レティシアが小さく呟く。
「……やるじゃない」
ノエルも視線を逸らさない。
「……最初から飛ばしてる」
グランヴェルが一歩引く。
そして――
笑う。
「そうでなくてはな!」
次の瞬間。
魔力が爆発し、空気が震え、熱が生まれる。
剣に――炎が宿る。
燃え上がる。
紅の焔。
グランヴェルが火属性を纏う。
その存在が一段、引き上がる。
レオンが息を吐く。
「……ここからが本番か」
グランヴェルが口元を歪める。
「すぐにやられてくれるなよ」
空気が変わる。
戦いは――ここからが本当の始まりだった。




