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果てなき世界  作者: 影川明空人
第4章 学園1年目 武闘大会編
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第171話

第171話


 夜。


 学園は静けさに包まれていた。


 昼間の熱狂が嘘のように、廊下には人の気配も少ない。窓の外には月明かりが広がり、淡い光が石畳を照らしていた。


 その一角。


 中庭に面した廊下で、レオンは一人立っていた。


 手すりに軽く寄りかかり、夜空を見上げる。


「……はぁ」


 小さく息を吐く。


 身体の痛みはだいぶ引いた。だが、完全に回復したわけではない。


 それ以上に――


(……ギリギリだったな)


 リオルドとの戦いを思い出す。


 そして、レティシアとの激闘。


 どちらも、ほんの少しでも歯車がずれていれば負けていた。


「……俺、勝てたのか?」


 自問のように呟く。


「ええ」


 後ろから声が返る。


 振り返ると、そこにルシアンがいた。


「結果として、あなたは勝っています」


 静かな声。


 レオンは苦笑する。


「結果、ね……」


 少し間を置く。


「正直、あんまり実感ないんだよな」


 ルシアンは何も言わない。ただ隣に立ち、同じように夜空を見上げる。


 沈黙。


 やがてレオンが口を開く。


「リオルドもさ……」


 遠くを見るような目。


「あいつ、めちゃくちゃ強かったよな」


「ええ。近接の技術だけで言えば、トップクラスでしょう」


「だよな」


 レオンは軽く笑う。


「最初、全然通じなかった」


 思い出す。


 あの圧倒的な間合い。


 隙のなさ。


 それでも――


「でも、なんとか対応できた」


「はい」


 ルシアンが短く肯定する。


「おそらく神の加護の影響もありますが、それだけではありません。あなた自身が適応した結果です」


 レオンは少しだけ目を伏せる。


「……レティシアもさ」


 言葉が続く。


「あんなの、持ってるとは思わなかった」


 古代魔法。


 あの一撃。


 思い出すだけで、ぞくりとする。


「普通なら、あれで終わっていましたね」


 ルシアンは淡々と言う。


「未完成だったからこそ、あなたは立っていられた」


「……だよな」


 レオンは苦笑する。


「運がよかっただけか」


「違います」


 即座に否定する。


「立ち上がったのはあなたの意思です」


 一瞬、沈黙が落ちる。


 レオンは小さく息を吐く。


「……でもさ」


 少しだけ、声が弱くなる。


「明日……グランヴェルなんだよな」


 名前を口にした瞬間、空気が変わる。


 レオンの表情が曇る。


「あいつ……正直、別格だろ」


 火力、剣技、絶対の自信と余裕。


 どれを取っても、自分より上に見える。


「……勝てる気、あんまりしない」


 ぽつりと、弱音が漏れる。


 ルシアンは黙って聞いていた。


 否定もしない。慰めもしない。


 ただ――


「やるしかないでしょう」


 静かに言う。


 レオンが顔を上げる。


「これまでも、あなたはそうしてきたはずです」


 淡々とした口調。


 だが、その言葉には確かな重みがあった。


「勝てるかどうかではなく、どう戦うか。それを選び続けた結果が、今です」


 レオンは何も言わない。


 ただ、その言葉を受け止める。


「……あなたは、ここまで来た」


 ルシアンが続ける。


「ならば最後までやるだけです」


 一拍。


 レオンがゆっくりと息を吐く。


 そして、小さく笑う。


「……だな」


 さっきまでの弱さは、もうない。


「やるしかないか」


「ええ」


 短い肯定。


 レオンが夜空を見る。


 月は変わらず、そこにある。


「……ありがとな、ルシアン」


「別に」


 素っ気ない返事。


 だが、少しだけ空気が柔らぐ。


(あなたには、この程度で挫けてもらっては困ります)


 静かな夜。


 決戦の前の、わずかな時間。


 二人は並んで立ち、同じ空を見上げていた。


 明日。


 すべてが決まる。


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