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果てなき世界  作者: 影川明空人
第4章 学園1年目 武闘大会編
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第170話

第170話


 医務室には静かな空気が流れていた。


 先ほどまでの熱狂が嘘のように、落ち着いた時間。


 ガイウスがベッドに腰掛け、ノエルが壁にもたれ、テオドールが腕を組んでいる。フィアナはレオンとレティシアの容態を確認し、シャロンはその傍で控えていた。


 そんな中。


 小さく、布が擦れる音がした。


「……ん……」


 レティシアのまぶたがゆっくりと開く。


 視線がぼんやりと天井を捉え、やがて焦点が合う。


「……ここは……医務室ね」


 状況を理解するまでに時間はかからなかった。


 小さく息を吐く。


「……負けちゃったかー」


 軽い調子。


 だが、その奥にあるものは隠しきれていない。


 上体を起こす。


 フィアナがすぐに声をかける。


「レティシアさん、まだ無理は――」


「大丈夫よ」


 軽く手を振って制する。


 そして視線を巡らせる。


 ルシアン、ノエル、テオドール、ガイウス。


 そして眠っているレオン。


 口元がわずかに緩む。


「……初めて会った時は、何も知らないただの平民だったのに」


 小さく笑う。


「私を負かすとは……生意気になったものね」


 その言葉に、ノエルが小さく肩をすくめる。


「……あんたも大概だったけど」


「褒め言葉として受け取っておくわ」


 レティシアはさらりと返す。


 そしてベッドから足を下ろす。


 シャロンがすぐに寄る。


「お嬢様、まだ安静に――」


「動けるわよ」


 立ち上がる。


 多少ふらつくが、倒れるほどではない。


「帰るわよ、シャロン」


 当然のように言う。


 シャロンは小さくため息をつく。


「……本当に無茶ばかりですね」


 だがそれ以上は何も言わない。


 それが彼女なりの信頼だ。


 レティシアが扉の方へ歩き出す。


 その途中で、ふと足を止めた。


 ガイウスの方を見る。


「明日よろしくね、ガイウスくん」


 軽く手を振る。


 ガイウスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑う。


「おう、任せとけ」


 そのままレティシアは背を向ける。


 シャロンが付き従い、二人は医務室を後にした。


 扉が閉まる。


 静寂が戻る。


 ノエルがぼそりと呟く。


「……最後まであの調子」


「それが彼女だ」


 テオドールが短く答える。


 ルシアンは何も言わず、ただ扉を一瞬だけ見つめた。


 そして――


 ベッドの方へ視線を移す。


 レオン。


 その指先が、わずかに動いた。


「……ん……」


 ゆっくりと目が開く。


 ぼんやりとした視線が天井を捉える。


「……あれ……」


 しばらくして、意識が戻る。


 身体を起こそうとするが、フィアナがすぐに制止する。


「無理をしないでください」


「……ああ、ごめん」


 レオンは小さく苦笑する。


「最後……どうなったんだっけ」


 少し間が空く。


 そしてガイウスが口を開く。


「お前の勝ちだよ」


「……え?」


 レオンが目を瞬かせる。


 テオドールが淡々と続ける。


「レティシアを下して、勝利している」


 ノエルも小さく頷く。


「ギリギリだったけどね」


 レオンはしばらく黙る。


 そして、ゆっくりと息を吐いた。


「……そっか」


 ふと周囲を見る。


「レティシアは?」


「さっき帰ったところだよ」


 ガイウスが答える。


「そうか……」


 短く呟く。


 それ以上は言わない。


 ルシアンが一歩前に出る。


「レオン」


 静かな声。


 レオンが顔を上げる。


「明日は決勝です」


 その一言で、空気が変わる。


「相手はグランヴェル」


 レオンの表情が引き締まる。


 ルシアンは続ける。


「正直に言って、今日以上に厳しい戦いになるでしょう」


 淡々とした口調。


 だが、その内容は重い。


「彼の戦い方は、剣撃と火属性による圧倒的な高火力」

「剣技も巧みで、魔法の出力も異常です」


 ルシアンの目が細くなる。


「遠距離でやり合うよりは……近距離で斬り合った方が、まだ可能性はあります」


 レオンは静かに聞いている。


「ですが、それでも厳しいことに変わりはありません」


 一拍。


 そして、わずかに声を和らげる。


「今日はもう、しっかり休んでください」

「明日に備えることが、今の最善です」


 レオンは小さく頷く。


「……分かった」


 短い返事。


 だが、そこに迷いはなかった。


 医務室の中に、再び静かな時間が流れる。


 決戦は、すぐそこまで迫っていた。


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