第169話
第169話
闘技場の中心。
静寂は一瞬で破られた。
次の瞬間――爆発的な歓声が湧き上がる。
「うおおおおお!!」
「すげぇ試合だった!!」
「一年同士の戦いじゃねぇぞあれ……!」
拍手が鳴り止まない。観客は総立ちになり、興奮を抑えきれず声を張り上げる。
その中央では、倒れたレオンのもとへ医療班が駆け寄っていた。
「こちらです、慎重に」
担架が用意され、レオンの体が静かに持ち上げられる。意識はないが、呼吸は安定している。
フィアナが傍に寄り、手をかざす。淡い光がレオンの全身を包み込み、傷の応急処置が施されていく。
「大丈夫です。命に別状はありません」
落ち着いた声が周囲を安心させる。
担架がゆっくりと運び出される。
一方。
レティシアのもとへはシャロンが歩み寄っていた。
倒れ伏した彼女を見下ろし、小さく息をつく。
「……仕方ない人ですね」
呆れたようでいて、その声音はどこか柔らかい。
「お疲れ様でした、レティシア様」
そっと抱き上げる。無駄のない動作で担架へと乗せ、医療班へ引き渡す。
観客席からさらに声が上がる。
「どっちもすげぇよ……!」
「Sクラスとはいえ、あれが一年の戦いか……?」
「レベルが違いすぎるだろ……!」
称賛と興奮。
誰もが、この一戦の価値を理解していた。
ルシアンは静かにそれを見下ろす。
(……お互いに限界を絞り切った、いい戦いでした)
(二人とも、大きく成長したことでしょう)
それは感情ではなく、純粋な評価だった。
やがてレオニードが舞台へと上がる。
歓声が徐々に収まり、場が再び引き締まる。
「――準決勝、全試合が終了した」
低く、よく通る声。
「勝者、グランヴェル。そして、レオン」
再び拍手が巻き起こる。
「明日は三位決定戦、および決勝戦を行う」
観客席がざわめく。
期待と熱が、さらに高まっていく。
ルシアンは静かに席を立つ。
(……医務室へ行きましょう)
通路を進む。
途中でテオドールとノエルと合流する。
「……やはり、すごい戦いだったな」
テオドールが静かに言う。
「あそこまでやるとは思わなかったけど」
ノエルは肩をすくめる。
三人で医務室へ向かう。
扉を開ける。
中にはすでに数人の姿があった。
ベッドに座るガイウス。
横たわるレオンとレティシア。
そして、その治療にあたるフィアナとシャロン。
ガイウスがこちらに気づく。
「お、来たか」
軽く手を上げる。
「すげぇ音がしたからな」
口元を歪めて笑う。
「俺も見たかったぜ」
悔しさと、楽しさが混じった声だった。
ノエルが呆れたように言う。
「見てたら絶対騒いでたでしょ」
「そりゃな。音と歓声だけで十分テンション上がったし」
あっさり認める。
テオドールはレオンを見つめる。
「……あれを受けて、よく立ったな」
その言葉に、戦いの重みが滲む。
フィアナが振り返る。
「皆さんもお疲れ様でした」
穏やかな声。
「レオンとレティシアさんは安静にしています。しばらくすれば目を覚ますでしょう」
シャロンも軽く頷く。
「無茶しすぎですけどね、あの人」
視線をレティシアへ向ける。
その表情には、ほんのわずかな安堵が混じっていた。
ルシアンは二人を見つめる。
(……確かに)
限界の先。
そこまで踏み込んだ者同士の戦い。
簡単に終わるはずがない。
静かな医務室の中。
それぞれが戦いの余韻を抱えたまま――
次の戦いへ向けた時間が、ゆっくりと流れていく。




