表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てなき世界  作者: 影川明空人
第4章 学園1年目 武闘大会編
169/183

第168話

第168話


 爆煙が、ゆっくりと晴れていく。


 焼け焦げた地面。抉られた闘技場。空気はまだ熱を帯びていた。


 その中心に――二つの影。


 レティシアは杖に体を預け、荒く息をついている。額には汗が滲み、呼吸は乱れていた。魔力の消耗は明らかだ。


「……っ、やっぱり……無茶したわね……」


 視線の先。


 煙の中から、ゆっくりと人影が立ち上がる。


 レオンだ。


 全身が焼け焦げ、衣服はところどころ裂けている。呼吸は荒く、足取りも不安定。それでも――


 立っている。


 観客席がどよめく。


「立った……!」


「まだやる気か……!?」


 ルシアンは静かに見ていた。


(……やはり)


 完全な古代魔法ではない。


 今の一撃は強力ではあったが、“本来の威力”には届いていない。


(空間魔力の制御が甘い)


 古代魔法は本来、自身の魔力だけでなく空気中に漂う魔力を取り込み、増幅して放つ術式だ。だがレティシアはそれを完全には扱えていない。


(空気中の魔力を感知できていない……だから未完成)


 結果として、出力は落ちた。


 だからこそ――


(レオンは、倒れなかった)


 レオンが一歩踏み出す。


 ふらつく。


 だが倒れない。


 レティシアが息を整えながら小さく笑う。


「……本当にしぶといわね」


 レオンも笑う。


「そっちこそ……あんなの、初めて見たよ……」


 言葉は途切れ途切れ。


 だが、その目はまだ死んでいない。


 レティシアが杖を握り直す。


 だが、魔力はほとんど残っていない。


(……もう魔法は厳しい)


 分かっている。


 あと一撃も放てば、完全に枯渇する。


 レオンも同じだ。


 身体強化の反動。


 ダメージの蓄積。


 もう限界に近い。


 ルシアンが静かに呟く。


(……最後ですね)


 どちらも、もう長くは持たない。


 先に崩れた方が負ける。


 レオンが剣を構える。


 ゆっくりと。


 だが確実に。


 レティシアも杖を構える。


 その構えは、先ほどまでよりもずっと低い。だが、隙はない。


 観客席が静まり返る。


 誰も声を出さない。


 ただ見守る。


 次の一撃が、すべてを決めると理解しているから。


 レオンが踏み込む。


 遅い。


 だが、それでも前へ。


 レティシアが迎え撃つ。


 杖を振るう。


 レオンが剣で受ける。


 衝撃。


 互いに後退。


 もう一度レオンが踏み込む。


 レティシアが応じる。


 打ち合い。


 一合、二合、三合。


 どちらも鈍い。


 だが――


 重い。


 これまでのどの攻防よりも、重い一撃。


 レオンの剣が振り下ろされる。


 レティシアが受ける。


 だが腕が震える。


 踏ん張る。


 耐えて、反撃。


 杖が振るわれる。


 レオンが受ける。


 膝が折れかける。


 だが――


「まだ……!」


 踏みとどまる。


 レオンが一歩、前へ。


 レティシアの足がわずかに下がる。


 差が、出る。


 ほんの僅か。


 だが確実に。


 ルシアンの目が細くなる。


(……ここです)


 レオンが最後の力を振り絞る。


 一歩。


 もう一歩。


 剣を振るう。


 レティシアが受ける。


 だが――


 間に合わない。


 ほんの僅か、遅れる。


 剣が杖を弾く。


 体勢が崩れる。


「……っ!」


 レティシアの視界が揺れる。


 次の瞬間。


 レオンの剣が、彼女の喉元で止まる。


 静寂。


 勝負あり。


 レティシアの体から力が抜ける。


 そのまま――


 崩れ落ちた。


 意識を失う。


 観客席が一瞬遅れて爆発する。


「決まったぁ!!」


「レオンだ!!」


 審判の声が響く。


「――勝者、レオン!」


 その声を聞いた瞬間。


 レオンの膝が崩れる。


 剣を支えにする。


 だがもう限界だった。


「……はは……」


 かすかに笑う。


 そして――


 そのまま前に倒れた。


 意識を失う。


 闘技場の中心に、二人の勝者と敗者が並ぶ。


 ルシアンは静かにそれを見ていた。


(……いい戦いでした)


 限界の先。


 その一歩を踏み出したのは――


 レオンだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ