第163話
第163話
闘技場に静けさが戻る。
準々決勝、全試合が終了した。
審判席に立つレオニードが前に出る。
「諸君、よく戦った」
低く響く声が場を支配する。
「これにて一年生武闘大会、準々決勝を終了とする」
観客席から拍手が起こる。
「この後、一定時間の休憩を挟み、準決勝を行う」
わずかに間を置く。
「第一試合――グランヴェル対ガイウス」
ざわめき。
「第二試合――レオン対レティシア」
歓声が上がる。
ルシアンはそれを聞きながら静かに踵を返した。
(……さて)
控え室へ向かう。
レオンに助言をするためだ。
(レティシア相手では、少しでも情報が必要でしょう)
通路を進む。
その途中。
「ルシアン」
振り向くとフィアナが立っていた。
「……フィアナ」
白衣姿のまま、落ち着いた様子でこちらを見ている。
「控え室へ向かわれるのですか?」
「ええ。フィアナもですか?」
「はい。少し確認したいことがありまして」
ルシアンはわずかに目を細める。
「なら、一緒に行きましょうか」
「そうですね」
二人で並んで歩き出す。
短い沈黙。
やがてフィアナが静かに口を開く。
「……やはり、気づいていますよね」
「ええ」
それだけで通じる。
(神の気配)
控え室の前に着く。
ルシアンが扉を開ける。
「失礼します」
中には四人がいた。
グランヴェルは壁に寄りかかり、目を閉じている。
ガイウスは椅子に座って腕を組んでいた。
レオンは軽く肩を回している。
レティシアは静かに佇んでいた。
ルシアンが一歩進み出る。
「皆さん、代表確定おめでとうございます」
レティシアが微笑む。
「ありがとう。まあ当然といえば当然ね」
レオンが苦笑する。
「正直、ギリギリだったけどな……」
ガイウスが笑う。
「こっちはほんとギリギリどころじゃなかったぞ」
グランヴェルは目を開くことすらしない。
興味がない。
ルシアンはそれを横目で確認する。
(……相変わらずですね)
軽く言葉が交わされたところで、フィアナが前に出た。
「レオン、少しよろしいでしょうか」
「ん? 何?」
フィアナは真っ直ぐに見つめる。
「レオンは、神の加護を受けていらっしゃいますか?」
空気がわずかに変わる。
「……なんのことだ?」
レオンは戸惑いながら返す。
フィアナは静かに続ける。
「先ほどの試合中、ほんの僅かですが神気を感じました」
「私は聖女として神託を受ける身です。実際に光の神・ルミナリア様にお声がけいただいたことがあります」
「その際に感じた気配と、似たものをレオンから感じました」
レティシアが興味深そうに目を細める。
「へえ……それは珍しいわね」
そして淡々と続ける。
「ちなみに私は調和の神・ハルモニアの加護を受けているわ」
フィアナが頷く。
「ええ。私は癒しの神・エリュネア様の加護と、光の神・ルミナリア様の寵愛を受けています」
レティシアが小さく息を吐く。
「加護持ちですら珍しいのに、寵愛とはすごいわね」
グランヴェルが目を開く。
わずかにだけ。
「……神の加護か」
それだけ言って、再び目を閉じる。
興味は薄い。
ただし、完全に無関心ではない。
レオンは少し考える。
「……正直、よくわからないな」
「でも最近、少しだけ力が湧いてくる感じはあった」
フィアナが柔らかく頷く。
「そうでしたか」
「それでしたら、一度教会へ行かれるとよろしいでしょう」
「どなたの加護か、はっきりと分かるはずです」
「もしよろしければ、私もご一緒いたします。その方が手続きもスムーズに進みますので」
レオンが少し安心したように笑う。
「助かるよ。大会終わったら行ってみる」
ルシアンも静かに言う。
「ええ。その方がいいでしょう」
レティシアが楽しそうに笑う。
「その前に私との試合だけど?」
「ちゃんと来なさいよ」
レオンも笑う。
「逃げるつもりはないって」
ガイウスが頭を掻く。
「なんかすげぇ話してんな……神とか」
「俺には縁なさそうだわ」
フィアナが優しく微笑む。
「そうとは限りませんよ。ガイウスさんのような方でも、後に加護を受けることもあります」
「へえ……そうなのか」
その時。
扉が開く。
「準決勝第一試合、グランヴェル、ガイウス」
係員の声。
「準備を」
グランヴェルが静かに立ち上がる。
視線を向けることもなく、そのまま歩き出す。
ガイウスも立ち上がる。
「よし、行くか」
二人が控え室を出ていく。
次の戦いが、始まる。




