第162話
第162話
準々決勝第四試合。
レティシアとテオドールが対峙する。闘技場に満ちる魔力は濃く、観客席のざわめきも自然と抑えられていた。
ルシアンは静かに二人を見下ろす。
(純粋な魔法戦……格はレティシアが上ですね)
審判の合図と同時にテオドールが先に動いた。
「ボルトスピア」
雷槍が一直線に走る。速く、鋭い。
だがレティシアは一歩も動かない。
「アースガード」
土壁が展開され、雷を受け止める。爆ぜる音が響くが貫通はしない。
すぐにテオドールが追撃する。
「エアカッター」
複数の風刃が軌道を変えながら迫る。
「アクアウォール」
水の壁が展開され、刃を吸収する。完全な相殺。
ルシアンは目を細める。
(無駄がないですね)
テオドールは止まらない。
「グランドスパイク」
地面から岩槍が突き出る。範囲を広げ、逃げ場を削る狙いだ。
レティシアは半歩だけ後退し、「フレアボルト」を放つ。火球が岩槍を砕き、爆炎が視界を覆う。その煙の中で魔力がさらに膨れ上がる。
「テンペストボルト」
雷と風の複合魔法。広範囲にわたり空間を叩き潰す。観客席がどよめくが、レティシアは静かに応じる。
「アースドーム」
土の半球が形成され、すべての攻撃を受け止める。轟音が止み、土が崩れ落ちる。そこに立つレティシアは無傷だった。
テオドールが小さく息を吐く。
「……単純な属性じゃ通らないか」
分析は正確だ。ならば複合で崩す。
「グレイシャルランス」
氷槍が高速で放たれる。
「フレアガード」
炎がそれを溶かし消す。
「ボルトスピア」
雷だけはわずかに通りが違う。レティシアの表情が僅かに動く。
「……雷は少し面倒ね」
だが「アースガード」で威力を削ぐ。完全ではないが致命にはならない。
魔法の応酬は続く。水、風、地、雷。テオドールは理詰めで構築し、最適な手を積み重ねていく。しかし、そのすべてをレティシアは上位互換の処理で返していく。
ルシアンは確信していた。
(処理能力で負けている。このままではレティシアを崩せませんね)
「もういいかしら?」
レティシアが一歩前に出た瞬間、空気が変わる。守勢から攻勢へ。
「エアレイド」
無数の風刃が広がる。
「アクアウォール!」
テオドールが受けるが、その直後「フレイムバースト」が炸裂する。水で相殺するも、次が間に合わない。
「ルミナバレット」
光弾が走る。速い。回避が遅れ、肩を掠める。観客席が沸く。
レティシアは止まらない。火、水、風、地、光を連続で切り替える。
「フレアボルト」
「アクアカッター」
「エアカッター」
「グランドスパイク」
「ルミナバレット」
間断なく繰り出される魔法。テオドールは的確に対処している。だが追いつかない。処理の速度、判断、展開。すべてで僅かに上を行かれている。
(……間に合わない)
テオドールは理解する。単発では互角でも、連続運用で差が出る。防御が遅れる。相殺が崩れる。徐々に押される。レティシアはただ攻めているだけではない。最も防ぎにくい順で魔法を重ね、選択肢を削っている。
ルシアンは静かに見ていた。
(終わりが近いですね)
テオドールの呼吸が荒くなる。防御が一瞬遅れ、「ルミナバレット」が頬を掠める。
次の瞬間には「フレイムバースト」が爆ぜる。防ぎきれない。確実に崩れ始めていた。
(このままでは削られる)
テオドールは判断する。距離を詰めるしかない。魔法の撃ち合いでは分が悪い。ならば崩す。
一気に踏み込む。杖を構え、間合いへ入る。レティシアも杖を取る。近接戦。
一合、二合。打ち合いは速い。だが――差は明確だった。レティシアの方が速い。受け流し、崩し、反撃。そのすべてが一段上。
テオドールの打ち込みがいなされる。逆に懐を取られる。体勢が崩れる。
(やはり……)
理解はしている。それでも踏み込んだ選択は間違っていない。ただ、届かない。
レティシアが一歩踏み込む。杖で弾く。テオドールの姿勢が完全に崩れる。
「ルミナスピア」
光の槍が喉元で止まる。
静寂。
勝負あり。
テオドールが息を吐く。
「……完敗だな」
レティシアは微笑む。
「いい戦いだったわ」
魔法、近接、判断。すべてにおいて一枚上。
レティシアは、格の違いを示して勝利した。




