第150話
第150話
個別任務から帰還して数日が過ぎていた。
武闘大会まで残り十日。
Sクラスの空気は、明らかに変わっていた。個別任務を終え、それぞれが確実に成長している。訓練場では、以前よりも鋭い気配が増えていた。
レオンも例外ではない。
ルシアンは訓練場の端で、レオンの動きを見ていた。剣の踏み込みは以前よりも深く、無駄な動きも減っている。まだ粗はあるが、それでも確実に強くなっていた。
レオンが剣を振り下ろす。
ガイウスが盾で受ける。
重い音が響く。
「……おっ、前より重いな」
ガイウスが笑う。
「そうかな?」
「間違いねぇ」
レオンが少し嬉しそうに息を吐く。
ルシアンは静かに目を細めた。
その時――
「……全員、教室へ戻れ」
レオニードの声が響いた。
Sクラスの面々が動きを止める。
武闘大会に関する連絡だろうと、誰もが察していた。
ルシアンも静かに教室へ向かった。
教室に入ると、すでに全員が揃っていた。レオニードは腕を組んで立っている。
「……武闘大会の代表選抜について説明する」
教室の空気が引き締まる。
「今回の武闘大会は全クラス参加だ」
予想通りの言葉だった。
「各クラスから選抜を行う」
「Sクラスからは八名」
ルシアンは静かに周囲を見た。
誰もが真剣な表情だった。
「選抜はランキング上位から行う」
資料が配られる。
ルシアンも目を落とした。
一位 グランヴェル
二位 レティシア
三位 フィアナ
四位 テオドール
五位 レオン
六位 シャロン
七位 ヴァルク
八位 ガイウス
九位 ノエル
十位 リオルド
順位は把握していたが、改めて見ると変化が分かる。特に十位の名前。
リオルド。
入学当初は中位だったはずだが、ここ最近で順位を上げてきていた。
ルシアンは視線を向ける。
リオルドは落ち着いた様子で資料を見ていた。体格はガイウスに近いが、雰囲気は軽い。だが、姿勢は崩れていない。無意識に体の軸が整っている。
鍛錬を積んできた者の体だった。
「ただし、辞退者がいる」
レオニードの言葉に視線が動く。
フィアナが立ち上がる。
「私は辞退します」
静かな声だった。
「武闘大会では怪我人が出ると思います」
「私は回復役に回ります」
誰も異論を挟まない。
フィアナらしい判断だった。
「承認する」
続いてシャロンが立ち上がる。
「私も辞退します」
「レティシア様の護衛を優先します」
レティシアが小さく頷く。
これも自然な流れだった。
「繰り上げだ」
レオニードが言う。
「九位ノエル」
「十位リオルド」
二人の名前が呼ばれる。
ノエルが小さく息を吐く。
「……まあ、そうなるよね」
リオルドは一瞬だけ驚いたが、すぐに笑った。
「了解です」
ガイウスが声をかける。
「よろしくな」
「ああ、よろしく」
リオルドが頷く。
そのやり取りを見ながら、ルシアンは周囲を観察する。
グランヴェルは腕を組んだまま、特に反応を示さない。興味がないのは明らかだった。
レオンはリオルドを見ている。戦力を確認するような視線だった。
リオルドは気にした様子もない。
「強いやつと戦えるなら、それでいい」
軽く言う。
レオンが小さく笑う。
「そうだな」
レオニードが言う。
「以上八名」
「武闘大会に向けて準備しろ」
代表が決まった。
武闘大会まで残り十日。
教室の空気が静かに変わる。
それぞれが、戦いを意識し始めていた。
ルシアンは静かに席を立つ。
訓練場へ向かう者も多い。
レオンも立ち上がった。
「ルシアン」
「今日も頼む」
「ええ」
短く答える。
武闘大会まで残り十日。
時間は多くない。
だが――
十分だった。
それぞれの思いを胸に、準備が進んでいく。
戦いは、すぐそこまで迫っていた。




