第146話
第146話
魔族の苛立ちは、もはや隠しきれなくなっていた。レオンを押し切れない。それどころか、徐々に押し返され始めている。そして後ろにいるルシアンの存在が、さらに流れを乱していた。必要な瞬間だけ介入してくるせいで、決定打を作れない。魔族の歯が軋む。
「……舐めるな」
魔力が膨れ上がる。黒い魔力が剣に絡みつき、周囲の空気が重くなる。レオンが息を整えた。この魔族は、本気で仕留めに来るつもりだ。
「……来ますよ」
ルシアンが静かに告げる。
「ああ」
レオンが剣を構えた。
魔族が踏み込む。今までよりも速い。剣が閃き、レオンが受ける。衝撃が腕に走るが、押し負けない。勇者の力が、まだ不完全ながらも身体を強化していた。
魔族の連撃が続く。一撃、二撃、三撃。レオンが捌く。四撃目、強引な振り下ろし。レオンは半歩ずれて軌道を流し、すぐに斬り返す。魔族が受ける。衝突し、拮抗する。互角だった。
魔族の目が見開かれる。
「……何だと」
さっきまでは押していた。だが今は違う。レオンが押し返している。
レオンが踏み込む。剣が閃く。魔族が防ぐが、体勢がわずかに崩れる。レオンはそこを逃さず追撃する。連撃の鋭さが、明らかに増していた。戦闘の最中でも、レオンは成長していた。
魔族が舌打ちする。
「調子に乗るな……!」
魔力がさらに膨れ上がる。横薙ぎの一撃。レオンが受ける。衝撃で足が地面にめり込むが、踏み止まる。そのまま押し返す。剣が弾かれる。レオンが踏み込み、魔族の腕を浅く裂く。
魔族が後退する。呼吸が乱れ始めていた。
レオンも息を荒くしている。まだ余裕はない。勇者の力も安定していない。油断すれば逆転される可能性は十分にある。
魔族が低く唸る。
「……人間風情が」
突きが放たれる。速い。レオンは半歩ずれて躱し、そのまま横から斬る。魔族が受ける。互角の衝突。レオンがさらに踏み込む。その瞬間、足元の地面がわずかに隆起した。ルシアンの補助だった。
レオンの踏み込みが伸びる。
魔族の目が見開かれる。
剣が肩口に深く入る。血が噴き出した。
「っ――!」
魔族が大きく後退する。
確実に押していた。
ルシアンは静かに見守る。もうレオンは戦えている。あとは自分で勝つだけだった。
魔族が息を荒くしながら構える。そして――
「……舐めるなあああ!!」
最後の猛攻だった。
踏み込みは今までで最速だった。剣が連続して振るわれる。一撃、二撃、三撃。重い。速い。レオンが押される。四撃目の横薙ぎで後退し、五撃目の振り下ろしで地面が砕ける。六撃目の突きが頬を掠め、血が流れた。
それでもレオンは下がらない。
踏み止まり、呼吸を整える。
視界が澄む。
動きが見える。
レオンが踏み込む。剣を振るう。魔族が受ける。拮抗する。ルシアンがわずかに風を操る。レオンの身体が軽くなる。踏み込みがさらに伸びる。
押し合い。
そして――
わずかにレオンが勝った。
「はあああああ!!」
レオンが叫び、剣を振り抜く。魔族の剣が弾かれる。隙が生まれる。レオンが踏み込む。
一閃。
魔族の胴を深く斬り裂いた。
血が舞う。魔族が膝をつく。
「……人間、が……」
魔族が睨む。だがもう動けない。レオンが剣を構える。本来なら生かして情報を得るべきだった。だが、そこまでの余裕はなかった。
レオンが振り下ろす。
最後の一撃だった。
魔族が倒れる。
戦闘終了だった。
レオンが大きく息を吐く。
「……勝った」
肩で息をしながら剣を下ろす。
ルシアンが静かに近づく。
「見事でした」
レオンが苦笑する。
「……結構ギリギリだったけどな」
「ですが、勝ちは勝ちです」
その時、別の方向から足音が聞こえる。アルベインたちだった。全員多少の傷を負っていたが、無事だった。
「……終わったか」
剣士の男が言う。
「ええ」
ルシアンが答える。
弓使いの女性が倒れている魔族を見る。
「……倒したのか」
レオンが頷く。
「何とか」
大柄な男が驚いたように笑う。
「おいおい……二人だけで倒したのか?」
「……はい」
アルベインが少し驚いた表情を見せる。
「正直、驚きました。上位の魔族でしたから」
弓使いの女性が腕を組む。
「……よくやったじゃねぇか」
少しぶっきらぼうな口調だったが、どこか嬉しそうだった。
アルベインが倒れた魔族を見ながら言う。
「魔族がこの森にいた……しかも複数」
剣士の男が頷く。
「偶然とは思えないな」
大柄な男が言う。
「今回の異常……魔族の仕業かもしれねぇな」
全員が静かに頷いた。
森の異変。
強くなった魔物。
そして魔族の出現。
すべてが繋がり始めていた。




