第138話
第138話
遠征から帰還した翌日。
学園都市アーカディアは、いつも通りの活気に包まれていた。だがSクラスの面々は三日間の休養を与えられているため、学園内はどこか静かな雰囲気だった。
ルシアンは朝早くから行動していた。
向かった先は――学園図書館。
アーカディア学園の図書館は広大だった。一般の学園とは比較にならないほどの蔵書数を誇る。魔法理論、歴史、魔物学、古代文明、地理、神話――あらゆる分野の知識が集められていた。
ルシアンは静かに館内を歩く。
迷いはない。
すでに目的は決まっていた。
まず手に取ったのは――古代文明に関する書籍。
「……やはり、断片的ですね」
静かにページをめくる。
邪神。
古代神。
封印。
そういった単語は出てくるが、具体的な記述は少ない。重要な部分ほど、曖昧にぼかされている。
「意図的に消されている可能性もありますね」
小さく呟く。
さらに別の書籍を手に取る。
古代戦争の記録。
神々の介入があったとされる戦争。
だが――詳細は曖昧だった。
「……やはり、神に関する記録は少ない」
予想通りだった。
次に手に取るのは――魔物の分布に関する資料。
地域ごとの危険度。Sランクモンスターの出現傾向。魔境の位置。そういった情報を淡々と頭に入れていく。
さらに――
各国の歴史。
王国の成立。
戦争の記録。
消滅した国家。
すべてを読み込んでいく。
昼を過ぎても、ルシアンは席を立たなかった。
本を読み続ける。
読み終えた本を静かに積み上げる。
司書が少し驚いた様子で見るほどだった。
「……よく読む生徒ですね」
ルシアンは答えない。
ただページをめくり続ける。
夕方。
ようやく本を閉じる。
「……今日はこのくらいですか」
十分な収穫だった。
邪神の欠片に関係しそうな場所。古代遺跡の位置。各国の情勢。
断片的ではあるが、情報は確実に増えている。
ルシアンは図書館を後にした。
そして――翌日。
今度は都市の外へ向かっていた。
アーカディアの外には広大な平原と森が広がっている。学園の訓練場としても利用される地域だった。
ルシアンは静かに歩く。
気配を探る。
しばらく進むと――
魔物の気配。
複数。
Aランク程度。
群れだった。
ルシアンは剣を抜く。
魔物が飛びかかる。
ルシアンが踏み込む。
一閃。
一体。
続けて魔法。
風刃が走る。
二体。
残りが襲いかかる。
だが――
すべてをいなす。
最小限の動き。
最小限の魔力。
無駄がない。
数十秒。
戦闘終了。
「……問題ありませんね」
力を確かめる程度だった。
さらに進む。
今度はBランクの群れ。
これも難なく処理する。
だが、ルシアンはさらに奥へ進む。
やがて――
少し強い気配。
Aランク上位。
単体の魔物。
ルシアンは静かに構える。
魔物が突進する。
速い。
だが――
ルシアンが横へずれる。
一閃。
深く斬る。
魔物が反撃する。
だが、ルシアンは距離を取る。
魔法を展開。
地面が盛り上がる。
体勢が崩れる。
その瞬間――
突き。
魔物が崩れ落ちる。
ルシアンは静かに剣を収める。
戦闘時間は短い。
だが、あえて最小限の力で戦っていた。
「……無駄を減らす必要がありますね」
さらに魔物を探す。
戦闘を繰り返す。
効率を高める。
魔力消費を抑える。
静かな鍛錬だった。
日が傾き始める。
ルシアンは都市へ戻る。
三日間の休養。
だが――ルシアンは休まない。
知識を得る。
力を磨く。
そして――
夜。
分身体との情報共有を行う。
ルクス。
レイヴン。
カイル。
それぞれの情報が流れ込む。
「……順調ですね」
小さく呟く。
だが――
まだ足りない。
目的を達成するためには、あらゆる力が不足している。
まだ――足りない。
ルシアンは静かに目を閉じる。




