第136話 sideレイヴン
第136話
大陸南部――エルフの大森林。
この森は、魔境と呼ばれていた。
昼間であっても森の中は暗い。空を覆うほどの巨木が幾重にも重なり、光を遮っている。湿った空気と静まり返った空間が、不気味な圧迫感を生み出していた。
そして――この森にはSランク以上のモンスターがうじゃうじゃと存在する。
普通の冒険者では足を踏み入れることすら難しい。Bランクでは確実に命を落とす。Aランクでも油断すれば死ぬ。それほど危険な場所だった。
だが――
その森の奥には、エルフの住む領域がある。
だが誰も辿り着けない。
何重にも張られた結界。
侵入者を迷わせる強力な幻惑魔法。
地形そのものを歪ませる高度な術式。
それらが重なり、エルフの領域は完全に隠されていた。
さらに、エルフの住む場所にはモンスターが侵入できない。
つまり――
森の外側は魔境。
内側は聖域。
極端な構造だった。
そして、この森には噂がある。
エルフが閉鎖的なのは、何かを守っているからだという噂。
それは世界にとって重要な何か。
だが、詳細は不明。
ただ――
その噂は裏の世界でも語られていた。
そして――
その情報を確かめるために、一人の男が森を進んでいた。
黒髪。黒目。
全身黒ずくめ。
年齢は二十歳前後に見える。
男の名は――レイヴン。
裏の世界で少しずつ名を上げている存在だった。
情報収集を主とする男。
だが――
その実力は異常だった。
SSランク相当。
しかも力を隠していない。
単独行動のため、むしろ力を見せつける場面すらある。
レイヴンは静かに森を進む。
この森に入ってから数日。
だが――
まだエルフの痕跡すら見つからない。
レイヴンは小さく息を吐く。
「……厄介だな」
だが、焦りはない。
ルシアンとしての目的を達成するためには、世界中の情報が必要だった。
エルフの森。
噂。
そして隠された何か。
それらは無視できない。
その時――
気配。
しかも複数。
強い。
次の瞬間――
三体の魔物が現れる。
黒い鱗を持つ獣型。
すべてSランク以上。
普通なら撤退する状況。
だが――
レイヴンは静かに剣を抜く。
最初の魔物が突進する。
レイヴンが消える。
背後に現れる。
一閃。
首が飛ぶ。
一体。
残り二体が同時に襲いかかる。
影が広がる。
一体の動きが止まる。
剣が突き刺さる。
二体目。
最後の一体。
地魔法で体勢を崩す。
一閃。
三体目。
崩れ落ちた。
戦闘は一分もかからなかった。
レイヴンは剣を収める。
そして――
森の奥を見る。
気配があった。
微弱。
だが――確実に存在していた。
「……見ているな」
レイヴンは静かに手をかざす。
黒い魔力が広がる。
イクリプス。
倒した魔物の残留魔力が吸収される。
空気がわずかに歪む。
魔力がレイヴンへ流れ込む。
静かに力を取り込む。
そして――
レイヴンはわずかに視線を奥へ向ける。
わざとだった。
見ている者に――見せるため。
「……エルフか」
気配がわずかに揺れる。
だが、すぐに消える。
レイヴンは静かに歩き出す。
エルフの森。
隠された何か。
そして――
世界の秘密。
黒のレイヴンは、さらに奥へ進む。
確実に。
世界の核心へ向かって。




