第135話 sideルクス
第76話で名前を出した分かれている分身体の話です
第135話
大陸北部――聖国リュミエル近郊。
山岳地帯へと続く森の中を、一人の少年が歩いていた。
まだ幼さの残る顔立ち。
金髪に青い瞳。
年齢は十二歳ほど。
だが、その歩き方は落ち着いていた。
足音はほとんどしない。周囲の気配に常に意識を向けている。
腰には一本の剣。
装備は質素だったが、使い込まれていた。
少年の名は――ルクス。
若干十二歳にして、すでにBランク冒険者として活動している。
冒険者ギルドでも、少しずつ名が知られ始めていた。
ルクスは森の奥で立ち止まる。
重い気配を感じていた。
Aランク。
今回の討伐対象。
次の瞬間――
巨大な影が飛び出した。
四足の大型魔物。
岩のような皮膚。
巨大な牙。
Aランクモンスター――ロックファング。
低い唸り声を上げ、飛びかかる。
速い。
だが――
ルクスは一歩横に動く。
剣が閃く。
前脚に深い傷。
ロックファングが吠える。
再び突進。
ルクスが踏み込む。
腹部を斬る。
さらに踏み込む。
首元へ一閃。
ロックファングの動きが止まる。
数歩よろめき――
崩れ落ちた。
戦闘は十秒もかからなかった。
ルクスは剣を振って血を払う。
呼吸は乱れていない。
本来の実力はSSランク級。
だが、抑えている。
目立たないために。
ルクスは討伐証明となる牙を切り取る。
それを袋へ入れる。
そして森を抜けた。
山岳地帯を越え、街道へ出る。
その先に――
聖国リュミエルの街が見えてきた。
白い石造りの建物が並ぶ都市。
神殿の尖塔が空へ伸びている。
ルクスは無言のまま街へ入る。
人混みを避けるように歩く。
目的地は一つ。
冒険者ギルド。
やがて、石造りの建物の前に到着する。
扉を開ける。
中は賑やかだった。
冒険者たちの声。
酒の匂い。
装備の金属音。
ルクスが入ると、一部の視線が向いた。
「……あのガキか」
「また来たな」
小声が聞こえる。
ルクスは気にしない。
受付へ向かう。
受付の女性が少し驚いた顔をする。
「あ、ルクスさん」
ルクスは袋から牙を取り出す。
受付に置く。
「……ロックファング」
短く言う。
受付が目を見開く。
「もう……討伐したんですか?」
依頼は出されたばかりだった。
受付が確認する。
「間違いありません……討伐完了です」
周囲がざわつく。
「早すぎだろ……」
「Aランクだぞ……?」
その時――
「おい」
声がした。
数人の冒険者が近づいてくる。
装備はBランク相当。
やや荒っぽい雰囲気だった。
「またお前か」
ルクスは答えない。
男が続ける。
「ガキのくせに調子に乗るなよ」
周囲の空気が少し緊張する。
受付の女性も不安そうに見る。
ルクスは静かに視線を向ける。
それだけだった。
だが――
空気が変わった。
圧があった。
男が一瞬言葉を詰まらせる。
「……チッ」
だが引かない。
「ちょっと実力あるからって――」
男が手を伸ばす。
その瞬間――
ルクスが動いた。
手首を掴む。
軽く捻る。
男が膝をつく。
「ぐっ……!」
他の冒険者が驚く。
ルクスはすぐに手を離す。
それだけだった。
だが、完全に力量差は明らかだった。
冒険者たちは顔をしかめる。
「……行くぞ」
すぐに離れる。
ルクスは何も言わない。
受付の女性が苦笑する。
「相変わらずですね……」
ルクスは報酬を受け取る。
それだけ。
そして静かにギルドを後にする。
少年は無口だった。
だが――
確実に名を広げ始めていた。




