第134話
第134話
数日後――
馬車の窓から、巨大な城壁が見えてきた。
学園都市アーカディアだった。
白い石造りの巨大な城壁。その中央には大きな門が構えられている。行き交う人々や商人の姿も多い。遠征に出発した時と同じ光景だが、今はどこか懐かしく感じられた。
ガイウスが息を吐く。
「……帰ってきたな」
テオドールも窓の外を見る。
「ああ……やっとだ」
ノエルが短く言う。
「……戻った」
フィアナも小さく微笑む。
「安心しますね……」
レオンも静かに頷く。
「長かったな」
ルシアンは静かに外を見ていた。だが、内心では全員の様子を確認していた。疲労はまだ残っているが、全員問題なく戻ってきた。
馬車は門を通過し、学園へ向かう。
途中の街並みは賑やかだった。商人の呼び声、行き交う学生、活気ある雰囲気。
帰ってきたのだと、改めて実感する。
そして――
学園の正門前に馬車が止まった。
全員が降りる。
長い遠征が、ようやく終わった。
その時――
「諸君」
低く落ち着いた声が響いた。
レオニードだった。
Sクラス全員が自然と視線を向ける。
「遠征、ご苦労だった」
短い言葉だったが、重みがあった。
「今回の遠征は予想以上の成果だった」
視線が一瞬、レオンたちへ向く。
「特に予期せぬ事態もあったが、全員無事帰還できたことは評価に値する」
そして続ける。
「三日間の休養を与える」
小さなどよめきが起きる。
ガイウスが小さく呟く。
「三日……?」
テオドールも驚く。
「結構長いな」
レオニードが続ける。
「しっかり疲労を抜け」
そして――
「なお、遠征に同行した四年生は今回の報告も兼ねた会議がある」
フリードたちへ視線が向く。
「ついてこい」
短く告げる。
「以上。解散」
それだけ言うと、レオニードは歩き出した。
フリードは無言で後に続く。
ミレイも軽く一礼し、そのまま同行した。
ガイウスが肩の力を抜く。
「三日休みか……助かる」
テオドールも頷く。
「流石に疲れたからな」
ノエルが短く言う。
「……寝る」
フィアナも微笑む。
「私も……ゆっくり休みたいです」
レオンが肩を回す。
「とりあえず今日は寝るな……」
その時だった。
「レオン」
聞き慣れた声。
レオンの表情がわずかに固まる。
「……来た」
振り向くと、レティシアだった。
その後ろにはシャロンもいる。
「少しお時間いいかしら?」
優雅な微笑み。
だが――
レオンは知っている。
(逃げられない……)
「勇者の力について――」
始まった。
フィアナも巻き込まれる。
「フィアナさん、祝福についても――」
質問が次々に飛ぶ。
ガイウスが苦笑する。
「また始まったな」
テオドールが肩をすくめる。
「帰りの休憩でもずっとだったな」
ノエルが短く言う。
「……止まらない」
その様子を横目に――
「……すみません」
静かな声がかかる。
ルシアンが振り向く。
シャロン・ヴァレンハイトだった。
バルセリオン王国第二王女、レティシアの護衛。
入学順位六位。
短剣を主体とした近接戦闘を得意とし、地属性と闇属性の魔法を駆使する戦闘スタイル。
派手さはないが、安定した実力を持つタイプ。
そして――
レティシアの暴走を止める役割でもある。
つまり苦労人だった。
シャロンが小さく頭を下げる。
「レティシア様がご迷惑をおかけして申し訳ありません」
遠くではまだ質問攻めが続いている。
レオンが明らかに押されていた。
ルシアンは静かに答える。
「いえ」
シャロンが苦笑する。
「帰りの間もずっとでしたので……」
ルシアンは小さく頷いた。
こうして――
遠征は完全に終了した。
三日間の休養を前に、Sクラスはそれぞれの時間へと向かっていくのだった。




