第132話
第132話
遠征七日目の朝。
フェルディア大森林の朝は静かだった。昨日の激戦が嘘のように、薄い霧が森の中をゆっくりと漂っている。木々の隙間から差し込む朝の光が、湿った地面を淡く照らしていた。
レオンはゆっくりと目を開ける。身体が重い。筋肉の奥に鈍い痛みが残っている。だが、動けないほどではない。
「……」
身体を起こす。周囲を見る。焚き火の跡。横になっている仲間たち。昨日の激戦の記憶がゆっくりと蘇る。
「起きたか」
フリードの声が聞こえる。
「はい……」
レオンが小さく頷く。黒皮のオーガ、覚醒、死線の戦い。すべてが現実だった。
ガイウスも起き上がる。肩を回しながら顔をしかめる。
「……全身痛ぇな……」
テオドールも身体を起こす。
「魔力がほとんど残っていない……」
ノエルも静かに起きる。
「……まだ重い」
フィアナもゆっくりと目を開けた。
「……みなさん……」
レオンが静かに言う。
「無事だ」
フィアナが安心したように息を吐く。
ルシアンはすでに起きていた。静かに全員の様子を確認している。
フリードが立ち上がる。
「撤収するぞ」
短く言う。
全員が頷いた。
野営の片付けを始める。動きは明らかに遅い。疲労が残っている。それでも、誰も弱音は吐かない。
ミレイが結界を解除する。
荷物をまとめる。
そして――フェルディア大森林を後にした。
森を進む道中、しばらく沈黙が続く。誰もが疲れていた。だが森の出口が近づくにつれ、少しずつ緊張が解けていく。
やがて、開けた場所が見えてきた。
集合地点だった。
すでに複数の班が戻ってきていた。簡易的な野営が設営され、各班が休息を取っている。負傷している者もいるが、大きな怪我ではなさそうだった。
その光景を見て、ガイウスが息を吐く。
「……戻ってこれたな」
レオンが頷く。
「ああ」
テオドールが苦笑する。
「流石にSランク三体は……きつかったな」
ノエルが短く言う。
「……死ぬかと思った」
フィアナが静かに言う。
「ですが……皆さん無事でよかったです」
その会話をしていた時――
レティシアとグランヴェルが歩いてきた。
レティシアが腕を組む。
「……随分疲れているわね」
グランヴェルが尊大に言う。
「ふん……相当な戦闘だったようだな」
レティシアが言う。
「さっき聞こえたけど……Sランクのモンスターとやり合ったの?」
ガイウスが頷く。
「ああ……三体だ」
レティシアの目が見開かれる。
「三体……?」
グランヴェルの口角が上がる。
「……ほう」
「それで生き残ったとはな」
レオンが言う。
「フリード先輩たちがいなければ危なかったです」
グランヴェルが言う。
「それでも生き残ったのだろう」
「ならば貴様らの実力だ」
レティシアが続ける。
「私たちの班はBランク素材三つと、特殊素材一つだったの」
テオドールが聞く。
「特殊素材?」
「ミストフラワーよ」
フィアナが少し驚く。
「霧の中でしか採取できない花ですね」
レティシアが頷く。
「ええ。戦闘よりも索敵と判断が重要だったわ」
グランヴェルが言う。
「俺たちの班はAランクの単体討伐だった」
ガイウスが少し驚く。
「Aランク単体か……」
「ふん、問題ではなかったがな」
尊大に言う。
「だが――」
少しだけ口角を上げる。
「三体のSランクには及ばぬか」
レティシアがルシアンを見る。
「あなたたち……思った以上ね」
ルシアンが静かに言う。
「……運が良かっただけです」
グランヴェルが笑う。
「運も実力のうちだ」
その時――
フリードが言う。
「レオン、来い」
「はい」
二人は報告へ向かう。
残ったメンバーの周囲では、小さなざわめきが起きていた。
「Sランク三体?」
「本当か?」
そんな声が聞こえる。
ノエルが静かに言う。
「……目立った」
テオドールが苦笑する。
「間違いなくな」
やがて――
レオンとフリードが戻ってくる。
「報告は終わった」
フリードが言う。
レオンが続ける。
「課題は完了。素材も提出しました」
フリードが続ける。
「Sランク三体の件も報告済みだ」
レオンが言う。
「調査が入るそうです」
レティシアが頷く。
「やっぱり……異常だったんですね」
フリードが短く言う。
「ああ」
遠征は――終わりを迎えた。
だが、確かな成長を残していた。




